凜とした姿、役者の美しさ yhs『四谷美談』

色気のある芝居だ。役者がすばらしい。

特に、「祝(いわ)」を演じた曽我夕子のお岩さんらしい美しさ。長い黒髪に白い肌、異形を抱えるお岩さんは、近年のジャパニーズホラーの原型だ。美しさと醜さが同居することに人は美意識を刺激され、フェティッシュな魅力を感じる。それは、観たいんだけど恐ろしいという、まさにホラーのありようそのままだ。

yhs『四谷美談』の冒頭、ネット社会にうずまく、幾人かのセリフがしばらくつづく。正直このシーンはあまりよくない。役者の質の問題もあるだろうが、作品世界に入りこむことができない。だけどそれを救うのが、歌舞伎役者「与茂七」を演じる能登英輔の登場だ。その凜とした姿、役者の美しさを表現できている。

与茂七といろんな意味でライバル関係にある「伊右衛門」を演じるのは小林エレキ。演劇シーズンにおいて小林と能登は常に対になってきた。イレブンナイン『12人の怒れる男』では、虚無的な怒りを抱えた陪審員(小林)と、全体をまとめようとする小市民的な陪審員(能登)、yhsの前作『しんじゃうおへや』では、死刑囚(小林)と看守(能登)という立場だった。

『12人〜』のときも『しんじゃう〜』のときも、2人の配役を取り替えたらどうなるだろう? と僕はひそかに思っていた。本作もそうだ。彼ら2人の存在が札幌演劇界を面白くしているのは間違いないが、僕は、小林エレキ的配役、能登英輔的配役のさらに先を求めはじめているのかもしれない。

男優陣では他に、廃業した歌舞伎役者を演じた櫻井保一のホスト的後輩感は様になっていたし、コメディシーンもすごく笑えた。小林テルヲはクセのある知的なエロ按摩といったたたずまいで(一部僕の誤解があるかもしれないけど……)、パワーのある演技だった。ただ衣装が残念で、そこは全然違うアプローチをしてあの役の奥行きを別の角度から引き出した方がよかった。

女優陣では、元宝塚女優を演じた最上朋香の声質と体躯が際立っていた。後に彼女が陥る展開は、あの反抗的な声と体があってこそ引き立った(サディスティックな人間は抵抗感がある方が燃えるらしい)。この舞台は不思議で、男優陣は背が高くないのに、女優陣はみな背が高い。そこに異形を感じたのだけど、異形といえば文字通り異形さを“体現”した青木玖璃子には、すがすがしさすら感じた。

さて最後に、この舞台には主題歌がある。オフィスキュー所属「月光グリーン」のボーカル、テツヤが歌っているのだけど、彼はyhsの旗揚げメンバーで、大きな体と愛嬌のあるキャラクターでyhs初期作品には欠かせない存在だった。テツヤと、yhsのリーダーである南参は、yhs以前にある学生演劇サークルの一員で、実のところ僕もわずかな間そこに所属していた。僕がはじめて会ったときテツヤは「たまごっち」を持っていて、当時そうとう希少なもので「たまごっち持ってんだ!」みたいに驚いた記憶がある。その後彼らはyhsとなり、テツヤは役者をやめてミュージシャンを志した。ある夜、僕が狸小路を歩いていたとき、一人路上で歌うテツヤの姿を見かけたことがあった。彼はがんばっていた。そうして月日は流れ、たまごっちブームがポケモンGOブームとなった今年、テツヤはミュージシャンとなり、南参はyhsを大きくし、演劇シーズンで再会した。きっと、これも一つの美談なのかもしれない。

 

公演場所:コンカリーニョ

公演期間:2016年7月23日~7月30日

初出:演劇シーズン2016夏「ゲキカン!」

text by 島崎町

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