舞台全体にただよう雰囲気の良さ 弦巻楽団『君は素敵』

たいして観てもいないくせに思いきって言うけど、いま札幌の演劇で面白いストーリーをいちばん書けるのは弦巻啓太だ。

妙な言い回しになってしまったけど、つまりホームラン王ではなく首位打者……打率がいちばん高いということだ(今月、道外の劇団が弦巻脚本で公演を打った。彼の脚本にはそういう需要がもうある)。

演劇シーズンではストーリーの面白い舞台がたくさんあった。『フリッピング』『12人の怒れる男』『亀、もしくは・・・。』『しんじゃうおへや』『OKHOTSK』『狼王ロボ』……

あげていけばキリがないけど、なかでも弦巻作品は(既成、オリジナルをふくめ)『ブレーメンの自由』『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』、そして今期の『君は素敵』とどれもストーリーの力が強かった。

軽快なコメディ感、軽やかなセリフ、舞台全体にただよう雰囲気の良さ、キャラへの好感度など、弦巻脚本が好まれる要素は多々あるのだろうけど(もちろんダークなものもあるけど)、演劇シーズンで観た2つのオリジナル作品(『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』『君は素敵』)から感じたのは、絞りこみのうまさだ。

伝えたいものをよりよく伝えるために努力して、とっ散らかさずに、キャラやストーリーをラストへ導いていく。その様はストイックと言ってもいいくらいだ。

たとえば本作は、結婚詐欺師の4姉妹の話なのに、実際に男を誘惑するシーンがない。舞台は姉妹の家(応接間)のみで、観客が観るのは結婚詐欺の事前と事後のありさまだけ。この作品はあえてそこを省(はぶ)き、計画とその結果のみを見せる。

ふつうであれば男を誘惑する結婚詐欺シーンは面白そうだし、描きたくなる。しかし目先の面白さに飛びついて、そこを描いたとたんテーマがぶれるしストーリーがとっ散らかってしまう。この作品は結婚詐欺について伝えたい作品でなく、偽りの恋を計画し、演じているだろう女性たちの、本当の恋についての話なのだ(あるいはその女性たちに反射して映る、男側の恋の物語でもある)。

あえて欲を言えば、高嶋晴の初登場シーンはそのあと別のエピソードで分断されてしまうのでもう少しつづけた方がいいのではないかと思ったし、男が1シーンのみ登場するけど、出すならそれのみに終わらずにもう一度ストーリーにからんだ方が素材を使い切った感が出ると思った(男をそもそも出さないという選択肢も?)。

ラストは爽快感があって楽しいので、それをさらに増すためには4姉妹が財政的に逼迫(ひっぱく)してる感か家を手放したくない感なりを随所に入れた方がいいのではと今後の再演を期待して思った。

ともあれ、アバンタイトルが終わると大瀧詠一「君は天然色」が流れる。爽快だ。いっけんポップで軽やかだけど、膨大な知識とたしかな理論によって作られた玄人好みの作品だ。なるほど、この劇とずいぶん似てる。

 

※最後に

カーテンコール後、本作や他の弦巻脚本の販売が告知されていた。僕はもっと、お客さんと脚本が近しい関係にあってほしいと思う。

昔、まだビデオやDVDなどがなかった時代、映画ファンは雑誌に載ってる脚本を読んで、楽しかったシーンや胸に響いたセリフを何度も味わっていた。

時代が変わり、いま演劇では過去の公演を映像として販売するところもある。それの意味もわかるけど、伝わる面白さは実際に観たものの何十分の一かもしれない。しかし脚本は、お客の中にある楽しかった思い出をもう一度再生させてくれるはずだ。

それだけじゃない。脚本に書かれてある生のセリフを1つ1つ読んでいくことで、脚本家の意図がより鮮明にわかるだろうし、あるいはなにげなく聞いてたセリフがあらためて脚本を読むことでこんなにも強く訴えかけてくると気づかされることもあるはずだ。

舞台を観て楽しみ、終演後に脚本を買って帰宅後もう一度味わう。あるいは一度と言わず何度もかみしめる。そういう風に演劇とかかわることで、きっともっとお芝居は楽しくなるはずだ(それに、劇団にお金も落ちるしね)。

 

公演場所:シアターZOO

公演期間:2017年2月18日~2月25日

初出:札幌演劇シーズン2017冬「ゲキカン!」

text by 島崎町

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