キラキラJKたちの輝きに演出を見た アリスインプロジェクト in 札幌 『みちこのみたせかい』

いつの時代もアイドルのニーズはなくなりませんね。ということは、逆から見るとアイドル作りのノウハウは絶やしてはならないということになります。東京パフォーマンスドールってご記憶ある方いらっしゃいますか?某大手レコード会社が、真剣に『アイドルグループ』をレーベルの手で作り出そうというものでした。この中から、かの篠原涼子が現れるわけです。僕は、このアリスインプロジェクトを観たのは初めてでしたが、この年齢層の女優でしか醸し出せない、なんて言ったらいいのでしょうか、新鮮で甘酸っぱい透明感、手垢のつかないイノセンス感と一方でのあやうさという世界観がよく現れていたと思います。麻草郁の原作・脚本は、正直複雑な入れ子とパラドックス構造の上に人物の多い複雑な本で、人物相関図を読むのは諦めました。人工知能とかVRフレーム、人格の仮想空間へのバックアップとか攻殻機動隊的ワールドと思いきや、おばあちゃんの認知症治療の謎を握る姉妹、青臭い正義感を振り回すジャーナリストたちと、物語の筋を頭で追うだけでも大変です。でもこれは、アイドル演劇のための世界観を演出家に提示したキャラクター造形も含めた設計図と言えるのかもしれません。演出を託された納谷真大は、やはり舞台演出家らしく、台詞から分入って人物を彫り、演劇の方へより手繰り寄せようとしていました。例えば、冒頭語られる『ぽつぽつと、アスファルトが灰色から黒に変わっていく…』というびっくりするほど瑞々しいセリフがあるのですが、雨という言葉を使わず雨を描写する舞台上の腐心は見事でした。このセリフは深い所に埋め込まれた伏線になるのですが、見事に回収されました。美術を言えば、真ん中の保健室は病室にもなるのですが、女の子たちのメタモルフォーゼを象徴する繭のようにも見えました。

ヒロインのみちこ役、吉本ほのかは正統派美少女です。舞台奥にほぼ板付いていますが存在感がありました(意外とドSなキャラかもしれませんが)。これだけ役者女子が25人もいると誰押しで観るというのは難しいのですが、僕が観た「星組」公演では、本当に急きょ代役に立ったイレブンナインの宮田桃伽!神ってたですねー。役に詰まっている複雑なセリフを見事に舞台に置いて魅せました。去年7月の新人オーディションで入ったばかり。さすが!実際、宮田演じる井村解を中心に劇が回るのですから。順不同で言えば、時空を超える織部絹江役の塚本奈緒美。好きな女優の一人です。解の妹役の廣瀬詩映莉。いつものゴムまりのような弾け感を抑制した演技が印象的。さっすが若きエース!人工知能のアイ(言うまでもなく、A.I.)を演じた駒野遥香。avex所属のモデルさんで今回が初舞台だそうですが、目ヂカラが半端なく身体性も含め強い印象を残しました。ニコニコ生放送で知って期待していた、ちーしゃみん。劇の後半に登場する文字通りの爆弾娘。台詞回しもカッコイイー。惚れたです。そして、この役者も注目している一人、ディリバレー・ダイバーズの岩杉夏。芯をよく尖らせた造形で劇の中心にしっかり刺さっていました。このメンバーだと、岩杉がエンドロールなんだなぁと妙に感心。バックヤードスタッフもいい仕事をしました。振付の工藤香織(ダンススタジオマインド)。歌唱指導のソプラニスタ木幡周子 。主題歌として流れる『桜咲く春』がめっちゃ歌詞がよくメロディーもJKソングでいいんです。アリスインの公式はYouTubeに上がっているのですが、札幌チームのソプラノ2声はその何倍も美しく響いていました。これだけの大所帯を引っ張るのは演出家の力量です。グッズを2千円分以上買って好きな役者と握手権というノリにはさすがについていけませんでしたが、演出家が狙って追い込んだところには、観客として心地よく持っていかれましたと記しておきます。こういうの、僕は食わず嫌いしません。アリスと言えば、鏡の国のアリスに「同じ場所に留まるためには、全力で走り続けなければならない」という有名な赤の女王の仮説というのがありましたね。進化せねば絶滅する僕たち。次回の進化したアリスも楽しみです。

5/18(木)ソワレ星組初日  コンカリーニョ

 

 

text by しのぴー

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