初日報告 クラアク芸術堂『5月の蝶』

●作演家の予告通りにナンセンスな作品。メタフィクションへの挑戦。正直、上滑りしたチープな作品だったらイヤだな、と思っていた。とんでもない。場面ごとに意味は破壊されているけれども緩くはなく、むしろみっしりしている。

●現実と虚構が入り交じる世界で、自己実現、恋愛、友情、人生と社会への認識、コミック的な嘘くさいSF展開などの要素が、意味不明な形に細切れにされて、ごちゃごちゃと投下されていく。けれども驚きの大回収が待っている。終わればなるほど蝶の物語、作り手の頭の良さを感じる。

●会場と舞台の作りが面白い。照明の使い方も。観客をも現実と虚構の混じり合った世界に巻き込もうという試み。

●意味破壊している作品を支えるのは、役者の身体。酷使される役者たち(笑)。アクションのキレやダンスに稽古量がうかがえる。この勢いを保持して楽まで行けば、観客との呼吸は合ってくるのではないか。

●イントロ部分、私は面白いと思わなかった。ナンセンスにしても出発点が低すぎる。せめてもっと力強くキッパリとスタートすべきでは。あるいは、極めてゆるく(だが作品のトーンはキッパリ方向の気が)。現状の演出だと、あのシーンは役者の演技にかかっている。

●ナンセンス系には糞尿が付き物なのか。出てくるだけならいいが、エグい行動は私は好きじゃない。物語から醒める。同じように好みの問題として、これは演劇だと役者が示唆するメタ的な部分は、今の分量が私には許容範囲ギリギリ。やりすぎると内輪ウケの安い笑いになりそう。

●作品の提示部にあたる冒頭からの20〜30分は、細切れかつ破壊度が高いので、観客は出遅れる感がある。ギャグの効きが悪いのは客が作品に戸惑っているからか。最初から笑う気になっている客層なら爆笑もあったような。
後半に入ってパーツが揃ってくると、たたみ掛けも気持ちよく、クライマックスの盛り上がりまでついていける。…が、120分は長い。ここまで盛り込んで展開したい気持ちはわかるが、100分程度で歯切れ良く構成してくれても。。。

●クライマックスの後、重ねてねじ込む「悪夢はやがて終わる、目を開け」からの優しいラスト。観客の心地よさに配慮されている。だが、作品が短ければもっと盛り上がる気がする。
総じて、初日時点では観客の快楽という面で少し弱さがあるように思うが、作り手側も初めての試みではあるし、回を重ねて変わる気もする。役者の体力気力が勝負の分かれ目か。
叙情的にではなくクレバーに現実と虚構を扱った作品は札幌では珍しいと感じるし、さらけ出してきている感も面白い。弾け切れていない部分もあるが全体に溢れる「とにかく突破するんだ」という気合いは気持ちがいい。作り手の変化というドラマはいつも興味深い。札幌演劇に関心があるなら、チャレンジとして目撃しておくべき作品。

 

※初日速報ゆえ配慮の足りない点がありましたらご容赦を。また、自分がこの作品を受け止めきれたとも思っていない。違う視点が知りたい。他の方のレポートを待つ。

5月26日夜観劇

text by 瞑想子

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