小林なるみ・黒川絵里奈『影絵と朗読の世界 〜赤い蝋燭と人魚/うるうのもり〜』

札幌演劇の舞台でお見かけする小林なるみ氏が朗読。以前に沢 則行氏の「オホーツク」でも大活躍した黒川絵里奈氏によるサンドアートと影絵。作品は、小川未明の「赤い蝋燭と人魚」とラーメンズ、小林賢太郎作品の「うるうのもり」。いずれも20分少々の作品。いわゆる演劇のジャンルではないのだけど、自分が朗読をしていることもあり、ちょいと感想を書かせていただく。

黒川さんの繊細な切り絵がまず美しい。ゆらゆらと現れる、子を宿した「身重の人魚」の姿の哀切。昔懐かしいプレゼン器材、OHPに水やインクを投影してもたらされる海の世界が幻想的だ。

影絵操作もスクリーン前で行われるので、黒川さんともう1名でやりくりしている様子も見える。面白い。

ストーリーについては、父親は誰?とか人魚の生態設定は?などと、「日本のアンデルセン」小川未明氏に問いただすことままならず、悲しい結末を受け入れる。

小林さんの声はクリアで実に聴きやすい。過不足ない読みで楽しめた。戸の開け閉めの擬音など所々の効果音も出していたが、特に必要ないように思えた。昨今、朗読を披露する方々の中には、NHKアナウンサーの皆さんでも、舞台で身振り手振りをしながら朗読したり、効果音を入れたり、衣装をつけたりする演出がよく見られるようだ。これは中途半端極まりなく、私は好きではない。もちろん、オーディエンスに楽しんでもらおうという意図はよくわかるのだが、かえって想像の集中力が削がれる。小林さんくらい実力があれば文章と声だけでいい。朗読分野では、女性ならもちろん師匠の松井信子先生を尊敬しているし、男性なら磯田憲一氏のシンプルな読みが好きだ。文章が余計なフィルターなしにすっと胸に入ってくる。美しいもの、真実のもの、心を打つもの、いずれもシンプルだ。効果音や音楽も必要最小限に留めた方がいい。原文が良ければ良いほど。

チラシに事前発表はなかったので上演されて余計に嬉しかったのは、「うるうのもり」。以前に小林賢太郎氏の同舞台を観たのだ。当時私はラーメンズも小林氏も知らなかった。ご招待に感謝している。小林氏によって絵本として出版された「うるうのもり」の着想は面白く、彼の一人芝居は構成、セリフ、技術、姿形、いずれも素晴らしかった。絵本は少年の目線で書かれているが、舞台脚本は、怪人?うるうの語りで展開する。舞台に投影されたカレンダーがパシャパシャとめぐり、うるうと(40歳になった)少年が再会する最終場面に心から感動した。こんなすごい一人芝居ができる人がいたのか!何者!….だからラーメンズの小林だよ、と言われて、その後、アメリカ人に教えられてラーメンズの「日本の形シリーズ 土下座」英語説明付き、なんていう動画を見て大笑いしたものだ。

小林なるみさんの明るい声は、ストーリーに合っていたし、黒川さんのサンドアートで描かれる森は見事だった。最後のバッハのカノンは音楽があってよかった、安心だった。あの舞台の感動を思い出して、楽しい時間だった。ありがとう、ありがとう。

レッドベリースタジオにて2017年5月28日15:30の部鑑賞。

text by やすみん

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