それは詠(うた)うような─。BLOCH-REVIVE Vol.2『トキハナ』

僕はとても(原作の)亀井さんが好きなのである。
そのくせ、遅れてきた亀井ファンなのでANDは後期の『君とバキューム』からしか拝見していない。だから16年前の亀井作品を観ることへの期待と、果たして今の若手演劇人がどのようにそれを見せてくれるのか、というちょっと意地悪な気持ちでいたことも事実だ。

例によってストーリーに対する予備知識はゼロなので、北野武映画的なその筋の方々が出てきて、刺されて血だらけになったり内蔵がはみ出たりするような感じかなのかなあとぼんやり考えながら劇場に向かった。
すでに演出の前田さんが前説を初めていて、やたら楽しそうに吠えまくっている。
映画『ファイト・クラブ』や『ロッキー』のチラシが壁に無造作に貼り付けられたシンプルな舞台装置。
ああ、亀井さんは『ロッキー』が大好きだったよな、とふと思い出す。

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亀井さんの書くホンは詠うような短い言葉の奔流だ。そして僕は(当時)ANDを観ているというより、亀井さんを見ていた。亀井さんの抑揚や、暴力的な動きや、狂気を発散させながらも優しい眼差しをただ追っていた。
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暗闇に腕立て伏せをする姿が浮かび上がったとき、あ、山科さんだと気付く。(主役も把握してなかった。)
そして彼女との短い会話の応酬。
すぐに山科さんに引き寄せられる。前田さんがどの程度亀井脚本を解体してくるのだろうと思っていたが、詠うようなセリフはそのままに生きているだけでなく、短いセリフが咀嚼され、山科さんの表情はよく動く。亀井さんの「詩」に、言霊を懸命に乗せようとしているのがひしひしと伝わってくる。地下ファイトへと舞台が移っていくが、それ以前にこれは「セリフのボクシング」だ。役者力の高いメンバーが揃い、高いレベルで亀井脚本を再現しようとしている。
オリジナルに思い入れの強い人達にとっては「違う」のかも知れないが、これは前田さん(と井上さん)の『トキハナ』であり、そして亀井さんへのリスペクトに溢れていた。POPさや、女性を多めに配置して、おそらくオリジナルより「観やすい」仕上がりになっていたのではないかとも思う。(序盤に山科さんの顔に塗られるルージュが最後まで残るのは、血糊の代わりなんだろう。そんなキレイな演出も効いている)
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小柄な後藤さんの演技が金魚の着ぐるみに負けていない(オリジナルはナガムツさんかな)。久保さんの(主役を食わない)計算された抑揚、井上さんや熊谷さんの役処を抑えた開放のしかた、など、荒唐無稽なシーンをくぐり抜けながら物語は少しも破綻しない。そして若き主人公は、もがきながらやがて光ある出口へと向かう。それさえきっと不確かながら、不確かゆえに明るい「未来」。現実としてそこに「彼女」はいないのだが、それさえ爽やかだ。(亀井さんが当時24歳にしてそんな「愛」を描いていたことにも驚く。)
「亀井さんの居ない亀井作品で、僕は何を(誰を)見ればいいのだろう。」と戸惑うかと思っていたが杞憂だった。

2017/6/4(日)13:00 演劇専用小劇場BLOCHにて千秋楽を観劇
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BLOCH REVIVE Vol.2『トキハナ』(75分)
2017/6/2(金)〜4(日)
【原作】
亀井健(coyote)

【演出】

前田透(劇団・木製ボイジャー14号)

【演出助手】
井上悠介(きっとろんどん)

【出演】
山科連太郎(きっとろんどん)、久保章太(演劇集団空の魚/きっとろんどん)
田中晴彦(わんわんズ)、仲野圭亮(words of hearts)、石鉢もも子(ウェイビジョン)
井上嵩之(劇団・木製ボイジャー14号)、西村颯馬(劇団・木製ボイジャー14号)
竹道光希(北海学園大学演劇研究会/演劇家族スイートホーム)、むらかみなお(デンコラ)
八田夏海(北海学園大学演劇研究会)、熊谷嶺(霊6)、後藤夏実、

BLOCH-REVIVEとは?
過去BLOCHで上演され好評を得た作品を若手演出家を中心にリノベーションして再び上演するBLOCH企画。
第一弾は現在東京で活躍中の作家・川尻恵太が苗穂聖ロイヤル歌劇団で脚本演出した「すばらしい人生」を上田龍成(ウェイビジョン)がREVIVEした。

text by 九十八坊(orb)

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