それでも演っていく〜女優たちの火花 風蝕異人街『三人姉妹の憂鬱』

堀きよ美さん、三木美智代さん、高城麻衣子さん、こいけるりさん、4人の女優の競演。風蝕の女優さんらは、声量があって、キンキン高い声じゃなくて実に聞きやすい。舞台は、チェホフの「三人姉妹」を劇中劇に、女優たちの現実と空想が入混じる。若手のこいけるりさん演じる、女優を夢見てルンルンと生きている劇場の売り子と、ベテラン女優陣の演じる退廃的、気だるい、疲れた女たちの対照。私だってこのまま終わりたくない、というあがき。チェホフお得意の、「現実に失望し、もがき、行き詰まり、押しつぶされそうになりながら、それでも生きていく」人間が浮かび上がる。

思わずニンマリしてしまうのが、イリーナ役女優(堀きよ美)とオーリガ役女優(三木美智代)の、「あんた、私のセリフ喰ったでしょ。」という、終演後の言い争い。要は、あんたのセリフがフライングで早かったから、私のセリフ言えなくなっちゃったやんか、というケンカ。睨みをきかせて低音なのが凄みがあっていいね。こういう女の火花、ゾクッと楽しい。ありがとう、ありがとう。

さて、演出家こしばきこう氏が「リアリティがない」とチェホフに挑む、イリーナの「私、わかってた」というセリフについて。 これは、チェホフ作「三人姉妹」の中で、イリーナが現状打破のために愛はないけど結婚を決意した婚約者が、決闘で殺されたという知らせを受けて言うセリフ。私にはとてもリアリティがある。自分の運命を直感的にわかったのと、「やっぱりそうよね、この現状から逃れられないのよね、私は。愛してなかったんだし、神の祝福を受けれなかったのよ、どうせ私は・・」という取り憑かれたようなネガティブ思考と、わかってたと自分に言い聞かせることで、ショックを柔らげる強がり。望まなければ傷つかない。壊れそうな自分を守る呪文。「それでも生きていく」人間の悲哀と強さが見事に表れていると思う。のですけど。何れにしても結果、チェホフの描きたかった人間像は、リアリティをもって体現されていた。

それから、テネシー・ウィリアムズ登場は面白い。けど、アメリカの南部特権階級出身、ゲイであったという彼のイメージからすると、人物像がやや下品な気がする。あたしゃ学部はアメリカ演劇専攻だったゆえ、テネシー・ウィリアムズは偉い人。ヤンキー紳士として、チャーミングに描いて欲しかった。

ともあれ、お芝居が1時間で終わるのは、後の時間を得したようで嬉しい。1時間芝居はよい芝居。ありがとう、ありがとう。東京公演での健闘を祈りたい。

 

2017年6月16日19:30公演

アトリエ阿呆船にて観劇

text by やすみん

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