春に羽化した蝶も交尾を終えてこの世を去り、その姿を語る人もいなくなって、その卵たちが孵化する夏にようやく重い腰をあげています。自分があの時に観たかったものは何なのか、そして実際に目にした作品はどういうものだったのか。──劇団アトリエの旗揚げ公演からずっと小佐部さんの作品を拝見している観客の一人として、少しばかり長文を書いてみようかと思います。
これは、僕が勝手に展開する「コサベ論」です。既に『5月の蝶』の上演台本のあと書きや、小佐部さん自身のツイートから、僕の考えていた事はかなり的外れであったかも知れないと思い至ってもいますが。(いやあの小佐部さんのことだもの、まだまだ本心を韜晦しているのかもしれないですし 笑。)
劇団アトリエでは、いくつかの路線(テーマの方向性、演劇手法など)の違う作品を展開することをあえて公言した本公演と、「名作劇場」と銘打った、つかこうへいや野田秀樹などの既存戯曲(これも本公演)、そして教文演劇フェスなどで発表された幾つかの短編作品、などが上演されました。(他にWS公演や各種イベント等でも作品は発表され、中期~後期にかけて多作になっていきます。)
本公演だけで約6年間で21回(うち1回は未見)。旗揚げ前年の札幌劇場祭で新人賞を受賞した「さっぽろ学生演劇祭」の作品(『ハイパーリアル』)も作・演出が小佐部さんで、のちの劇団アトリエ所属役者が出演していたことを考えると、そこから『5月の蝶』まで足かけ8年の軌跡があります。
中でも、前述の『ハイパーリアル』や旗揚げ公演の『悪いのは誰だ』などのいわゆる「社会派」の作品群が、劇団アトリエの評価を高めました(そしてそれは、後の足枷にもなるわけですが、まあその辺りは置いておくとして)。
複雑な入れ子状態のタイムラインや緻密な伏線をコントロールする以上に、僕がこの時期の小佐部作品に感じた魅力は、観客に向けすべてをきちんと説明しようとする、丁寧な手法にあったと思います。
例えば問題を提起をするだけでなく、「こうなったのは、ここが分岐点だったからだ」とか「仮にこうであれば、こんな風にはならなかったはずだ」と、自ら提起した問題に自らの考えを(作中で)述べ、「僕はこう思うがあなたはどうだろう?」と観客に問うスタイル。思わせぶりに留めて賢いフリをすれば、観客は買いかぶってもくれると思うのですが、自分の手の内を見せることは、ひとつ間違えば自分の思慮の浅さを露呈してしまうリスクがあります。そこをあえて書き切る小佐部さんの脚本には、他の作家にはあまり見られない一種のカタルシスさえ感じました。
。。。いけね。こんなペースで書いていてはいつまでたっても終わりません。はしょります(笑。
(そしてここからが、僕の妄想的な「私的」コサベ論になるわけですが。。。)
いくつかの方向性の作品群の中で、時に作・演出が突出したり、役者力に引っ張られたりしながら、劇団アトリエは公演を重ねていきます。所属役者が地力をつけていくにあたっては、『熱海殺人事件』『ザ・ダイバー』『半神』といった名作戯曲への挑戦もプラスになったのだろうと思いますが、一方で作家としての小佐部さんは、「書きたいテーマ」をひとつひとつクリアして行ったがために、テーマの枯渇から、「書きたいモノ」より「演りたいモノ(演劇手法や演出)」へと傾倒していったのではないか、と感じていました。
また、短編フェスなどへの参加や外部脚本など、多作になるにつれ、時に脚本が「雑に」見えるような気がすることもありました。──いや、決して手を抜いているなどとは微塵も思いませんが、寡作で、自分の書きたいテーマがまだまだ残っていた時期の作品に比べると、手慣れてはいるが昇華度が物足りない、と時折感じてしまったのです。
片側で、所属役者たちはそれぞれ地力をつけ、男優陣は「アトリエ三銃士」と呼ばれる個性を確立し、小佐部さん自身も座・れらに客演した『鈍獣』で、役者としての高い評価を得ます。
唯一の所属女優となった柴田知佳さんは、看板役者としての才が『メシアの蟻地獄』『瀧川結芽子』で炸裂。「アトリエ=柴田」といった評価(というか印象)が高まります。それは劇団にとってはプラスでもあり、一方で画一的な路線を期待される危惧も感じました。
(この時期を経て柴田さんの退団が発表されたので、退団前の既定路線だったのかも知れませんが。。)
柴田さん退団後、多くの客演を得て上演される作品で、脇田唯さんや塚本奈緒美さん、そして以前からも参加していた山木眞綾さんといった客演女性陣、また多くの客演男性陣によって、劇団アトリエはある意味リセットされ、「所属役者による劇団カラー」よりも「小佐部作品を演じる札幌の実力派若手役者たち」という公演図式が何作か続きます(本公演以外にも、遊戯祭などで評価の高い作品も発表されます)。そして中期の代表作『汚姉妹』の再演で、劇団アトリエは幕を閉じ──。
劇団アトリエは、「クラアク芸術堂」に生まれ変わるわけですが…
小佐部さんは、どこへ向かっているのだろう、と、旗揚げ公演『5月の蝶』を前に、僕は考えたわけです。
<この続きは後編で。>
2017/5/27(土)14:00 琴似コンカリーニョにて観劇
──
クラアク芸術堂 第1回公演『5月の蝶』
これは夢か? それとも俺は夢と現実の区別がつかなくなってるのか?
夢と現実が区別できなくなる「バタフライ病」が蔓延する街で巻き起こる不思議エンターテイメント
2017/5/26(金)〜28(日)
【脚本・演出】小佐部明広
【出演】
有田 哲 伊達 昌俊
脇田 唯〈客演/POST〉 田中 温子〈客演/NEXTAGE〉 町田 誠也〈客演/劇団words of hearts〉 井口 浩幸〈客演/劇団32口径〉
高橋 寿樹 田邊 幸代 長枝 航輝 若月 篤 信山E紘希
佐藤 誠(研修生) 遠山 くるみ(研修生) 中村 雷太(研修生) 檜山 真理世(研修生) 八木 友梨(研修生)
text by 九十八坊(orb)