「私的コサベ論」(後編)。─クラアク芸術堂『5月の蝶』、そして。

お待たせしました。そして『5月の蝶』、本番です。

細かい感想は後述します。些末な不満はありますが、大枠では満足する公演でした。
(まあ、些末なと言えないかも知れないけど 笑)
それは「クラアク芸術堂」の旗揚げが、<前編>で述べたような、「劇団アトリエ」が引きずる様々な桎梏(しっこく)から解かれた小佐部さんが、より高みへ、大げさにいうと「札幌というローカルではなく、全国に通用するスタンダードなカンパニーを目指すための劇団の解体と再編成」だと僕が思い込んでいるからです。

新生カンパニーなのですから、はた目さえ気にしなければ、これはもう何でもアリの状況です。
だから、この作品単体の出来というよりは、気になったのは小佐部さんのその先の見据え方でした。

僕の耳に入るまわりの感想は、戸惑いながら作品を受け入れるもの、絶賛するもの、酷評するものと様々でした。それでこそ演劇。その意味で言えば大成功です。

僕の目には小佐部さんが、アトリエ時代に培ってきたこと、続けてきたこと(時として続けざるを得なかったこと)を放棄・解体し、新しいことを行おうとしながらも、ある部分ではそれを棄てきれず、またある部分ではそれに助けられて作り上げた作品に見えました。

序盤で、主人公の一人である漫画家の治(有田さん)が編集者(町田さん)に言われるダメ出し。
「キミの自分語り、もうお腹いっぱいなんだよね。」
「キミ自身のことじゃなくて、キミの作り出す、オリジナリティ溢れる世界観、これを見たいわけね。」
「世界って面白いよっつーこと。20数年しか生きていないキミにはわからないかもしれないけど。」

これはまさしく小佐部さんが自分に向けた言葉で、この作品のテーマなんじゃないのかなあ。

緻密な構成を夢オチの連続で(一見)放棄。これまでの本公演での婉曲でクレバーな言い回しをやめ、下ネタをぶちまける。──アトリエ時代の本公演ではあまり見られなかった作風です。それでいて伏線も含めパーツの緻密な連携と物語の収束力は、これまで培ってきたものでしょう。
また、まるで短編芝居かショートコントのような演出のない出ハケの連続や、過剰とも言えるメタ的なセリフは、アトリエ中〜後期の多作期の短編なども彷彿とさせます。

厳しい評価に繋がったのは、それぞれのエピソード作りが軽く見えてしまっていたこと。
「ナンセンスってこういうものでしょう?」
「下ネタってこうだよね。」
「こうすれば皆が喜ぶラストだよね。」
…そんな風に小佐部さんが確信犯的に「借りモノ」で構成したのか、それともまだそれらをオリジナルで創出することができないのか、それはわかりませんが、「楽をしている」ように見えてしまった面もあったかと思います。
今回がもし「確信犯的な開き直り」だったのなら、そこをオリジナルに昇華して「埋める」作業を今後は期待します。

それでも、これほどに物語を大掛かりに動かし、まとめあげてしまう力は、やはり緻密でクレバーな作家さんだなあと感じます。(「才人、才に溺れる」危険と隣合わせの感はありますが。)

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ちょっと話は脇にそれますが。当日のリーフレットの文章。狙いは分からないでもないですが残念でした。購入した上演台本のあとがきに、これまで、そしてこれからについての小佐部さんの想いが書かれていたのですが。。。それは購入者特典だとしても、リーフでももう少し真摯なコメントを読みたかった(って、なんかコレ前にも言ったことがあるような気がしますよ、小佐部さんに。)

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冒頭に述べたように、大枠ではこの作品を僕はかなり満足していて、それはもちろん、役者さんたちの熱演によるところもかなり大きいです。
有田さんは表現者としての肉体と技量をいかんなく発揮し、伊達さんは独特のスタンスで物語を支える。アトリエ初期からの頼もしいメンバーです。名調子の信山さん。近年豊かさをいちだんと獲得した脇田さん。安心の域にある田中さん。僕的ベストアクトの町田さん。ツボにはまった井口さん。──(そしていつか、小佐部さん自身の登場も一度は望みたいなあとも。)

最後にひとつだけ。
今回は恋人同士のシーンが何カ所かありましたが、あれは「シーン」に過ぎなかった。
僕はそろそろ、小佐部さんが描く「愛」が見たいです、「机上の愛」ではなく。「20数年生きて」きたのだから、そろそろ 笑。

2017/5/27(土)14:00 琴似コンカリーニョにて観劇
──
クラアク芸術堂 第1回公演『5月の蝶』

これは夢か? それとも俺は夢と現実の区別がつかなくなってるのか?
夢と現実が区別できなくなる「バタフライ病」が蔓延する街で巻き起こる不思議エンターテイメント

2017/5/26(金)〜28(日)

【脚本・演出】小佐部明広

【出演】
有田 哲 伊達 昌俊 脇田 唯〈客演/POST〉 田中 温子〈客演/NEXTAGE〉 町田 誠也〈客演/劇団words of hearts〉 井口 浩幸〈客演/劇団32口径〉 高橋 寿樹 田邊 幸代 長枝 航輝 若月 篤 信山E紘希 佐藤 誠(研修生) 遠山 くるみ(研修生) 中村 雷太(研修生) 檜山 真理世(研修生) 八木 友梨(研修生)

text by 九十八坊(orb)

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