この「語り場」で、「札幌演劇シーズンSPECIAL」が組まれています。札幌演劇シーズンは、2012年に演劇創造都市札幌プロジェクト(以下プロジェクト)の提案・主催で始まりました。その立ち上げにかかわった者としてその経緯、プロジェクトが考える今後の展望を書いてみたいと思います。
佐久間さん、カジタさんの寄稿で、演劇の社会化が語られています。ボクがその必要性を強く感じたのは、1988年にロシアのレニングラード(当時・現サンクトぺテルブルグ)マールイドラマ劇場(以下LMDT)『兄弟姉妹』をパリで観た時です。
1 プロジェクトの前、北海道演劇財団の準備
当時ボクは札幌演劇鑑賞協会(以下札幌えんかん)理事長で、主に東京から時々外国から演劇を呼んで公演することをしていました。札幌えんかん会員は数千人で、ボクは呼ぶ作品を選ぶために年間百数十本の演劇を東京(時々欧米)で観ていました。そんな日々の中でこの作品に出合ったのです。
『兄弟姉妹』は、スターリン時代の農村の疲弊を描き、全世界で高く評価されていて、ソ連崩壊のペレストロイカのシンボルになった作品でした。この作品を日本にも呼ぼうということで、銀座セゾン劇場と札幌えんかんで交渉を始め、翌89年に公演が実現します。
その詰めの交渉で、88年12月にレニングラードに行った時のことです。欧米の演劇シーズンは秋から翌年初夏です(人口2万人のアシュランドは観光客をターゲットにしていますので早春から晩秋まで)。その期間、各劇場は、蓄積してきた数本の演目を交互に公演します。12月のLMDTもその最中でした。
国立であるこの劇場の俳優、スタッフは雇用されているプロですから、平日夜は公演がありますが昼間は空いています。その昼間の時間を数年間かけて、もともと小説だった『兄弟姉妹』を舞台化していったと聞きました。
国立の劇場が創った演劇がその国の体制まで変えてしまう! そんな演劇を創るために、演劇シーズン最中の昼間を数年間も使える! 札幌えんかんで、他都市から演劇を呼ぶ活動をしていたボクは、このままではいけないと考えました。この街でじっくり演劇を創る専門家が存在できるようにし、街を変えるような演劇を創るシステムを札幌に作らなければならないと思いました。
『兄弟姉妹』の感動は札幌でも圧倒的で、札幌で演劇創造を支える財団を作ろうという流れになりました。
準備した方で今でも札幌演劇のために活動している人は多いですが、例えば、秋山孝二さん(現北海道演劇財団理事長)、飯塚優子さん(現札幌演劇シーズン実行委員会事務局長)、岩本勝彦さん(弁護士)です。
HTBの五十嵐専務(当時)は、とても熱心に活動されましたが、残念ながらがんで亡くなられました。しかしその意思は、歴代社長に受け継がれ、荻谷さん(前社長)、樋泉さん(現社長)が札幌演劇シーズン実行委員長)として活躍されています。
北海道演劇財団設立は96年で、準備を始めてから何と8年もかかりました。それは当時演劇を社会が支えるという合意がなかった時代だからです。日本に最初の創造型劇場である水戸芸術館が出来たのは90年です。行政、財界、市民の合意づくりが北海道演劇財団立ち上げの胆でした。
2 第1期プロジェクトと札幌演劇シーズン
北海道演劇財団だけでは支える体制は不十分だと考え、札幌の演劇はどうしたらいいかと考えるアートマネジメント研究会が出来たのが2008年です。飯塚優子さん、閔鎭京さん(プロジェクト代表幹事)、右谷誠さん(札幌市芸術文化財団)とボクが呼びかけました。
毎月の討議を重ね、2009年末には、「演劇による創造都市札幌実現プロジェクト」(長いのでその後現名称に縮小)として、提言趣意書「100人の演劇人が活躍する街をめざして」がまとまりました。この演劇振興の札幌方式は全国から注目されました。
提言実現のため、北海道、札幌市、財界と話し合いを続けながら、何か具体的行動を起こそうということで始めたのが、2012年の「札幌演劇シーズン」です。ある期間、その街で創られた演劇の公演が毎日あるというボクの夢は、1988年に始まっていますから永かったです。実は、10年にTPS(現札幌座)公演を2週間、11年に1ヶ月行いましたから、ボクにとっては、演劇シーズンは、ホップステップを経たジャンプでした。
演劇シーズンは、翌年から札幌市の補助金が出ることになり、「札幌演劇シーズン実行委員会」が結成され、プロジェクトとの共催になりました。
3 第2期プロジェクトとシアターカウンシル
演劇シーズンは始まりましたが、演劇人の生活基盤はなかなか確立されず、LMDTのような創造体制は作られませんでした。そこで、昨年、運営メンバーを若返らせて新趣意書を作ることになりました。
代表幹事:蔵隆司 ⇒ 閔鎭京、事務局長:平田修二 ⇒ 斎藤歩
蔵、平田は代表、副代表に
新趣意書は今年5月に完成しました。詳細は、読んでいただくことにして、要旨は以下の通りです。
札幌の民間劇場に対する重点的支援
(仮)札幌演劇振興会(札幌シアターカウンシル)の設立
90年の水戸芸術館から始まった地方都市の創造型劇場設立の流れは加速し、今全国には十数都市に同様な劇場があります。しかしその全てが行政立です。札幌は、民間の劇団、劇場が創造の中心を担っており、特異な都市です。その強み、ポテンシャルを生かしていこうという提案です。
この提言を検討するため、全国で活躍する方を招いて、「劇場について考えるシアターZOOラボセミナートーク」を3回行います。
ゲスト 多田淳之介さん
(演出家、東京デスロック主宰、富士見市民文化会館キラリふじみ芸術監督)
ボクもセミナーに登壇します。
3回のセミナーの詳細は、d-SAP をご覧ください。
演劇プロデューサー/演劇創造都市札幌プロジェクト副代表
text by ゲスト投稿