【特別寄稿】祝・再演! リスクを背負って刷新に挑む舞台人たちへ

寄稿者:しのぴー

いよいよ7月22日から12シーズン目となる札幌演劇シーズン2017-夏-が始まります。これまでに48作品を上演し、観客数ものべ5万人を超えました。今や、札幌の演劇シーンを盛り上げる大きなエンジンにもなっています。札幌演劇シーズンの最大の特徴は「再演(再々演以降を含む)」であるということです。実行委員会には作品選定部会があって、各劇団からの上演申請を審査する仕組みになっています。今年の冬シーズンからは、新たに「レパートリー公演」も加わりました。過去の上演で好評を得た作品で、劇団にとっても「十八番」といえる作品を劇場を大きくして(座席数521のかでる2・7)、より多くの皆さんに観ていただきシーズンを盛り上げようというものです。

 

「再演だからクオリティは保証済みです」といいたいところですが、再演って実は難しいものです。例えば5年ぶりの再演ということで考えましょう。

何が違うでしょうね。本は同じと仮定しても(大概そうはならないのですが)、作家も演出家も役者も歳とってますよね。時代の空気も変わっています。そう、観客も歳とっているわけで、観る方も変化しています。これがまったく再現性のない演劇の奥深いところです。

つまり、初演といっても初日と千穐楽で上がりが違っているし、場合によっては、まったく芝居が変わってしまう(演出家が役の解釈を変えるなど)ことも珍しくありません。なので「再演って、初演のどの回の芝居を再上演するの?」と聞きたくなるくらい。

ライブ表現がすべてそうであるように、演劇も一期一会の出会いです。

その意味からすれば、再演は、作家・演出家自身による劇のリノベーション(刷新)と表現した方が良いかもしれません。書いた張本人が、「このセリフって、この芝居ってこういうことだったのか…」と、劇の核心を再発見していく機会でもあるのでしょうから。

 

リスクがあるという点で再演は、作家や演出家、役者にとってはいわば諸刃の剣です。だからこそ、初演を超えるリノベーション<再演>は、生まれることがあるのです。だから、チャレンジングなのでしょう。初演を観た方には芝居の見方が増えますが、初演が良けれ比べてしまったりしますよね。初演を観ていない観客にすれば、まったく知らないものとして感じます。
こうした多様な見方ができて、観劇後に、あーだ、こーだと過去に遡って盛り上がるのも再演ならでは。初演を観た方は、何がどう変わり、何がどう変わっていないのか。ナマモノである劇のスリリングさを大いに楽しみたいものです。

 

 

夏シーズンのトップバッターは、実力派で固定ファンも多い南参のyhs 『忘れたいのに思い出せない』。女優押しで観る癖のある僕としては、産休、育休から3年ぶりに舞台復帰する福地美乃に注目したいと思います。

続いて、盟友コンビともいえる作・川尻恵太と演出・山田マサルで贈るパインソー『extreme+logic(S)』。なんとハリウッドばりに結末が異なるマルチエンディングという仕掛けも楽しそう。赤谷翔次郎、田中温子ら育ち盛りの役者陣の弾けっぷりにも期待です。

演劇シーズン初登場となるミュージカルユニットもえぎ色『Princess Fighter』も見逃せません。作家・俳優として注目の深浦佑太脚本をcoloreの光耀萌希が演出・振付・作曲。もえぎ色の女優陣に加え、塚本奈緒美、青木玖璃子、岩杉夏らも加わっての女優祭りが楽しそう…!

今シーズンのレパートリー公演は、納谷真大のイレブンナイン『あっちこっち佐藤さん』。打倒集客5,000人とばかりに、かでるでの12公演に挑みます。原作はイギリスのレイ・クーニーの傑作コメディ『Run for Your Wife』で、物語の舞台をそのまま札幌に置き換えた納谷の創作の原点ともいえる作品です。納谷は、『あっちこっち佐藤さん』のプロトタイプとして『イージー・ライアー』という劇まで書いているので、思い入れはひとしおのはず。久々にストレートプレイの舞台に立つオクラホマの藤尾仁志が座長というのも応援ポイント(明逸人とダブルキャスト)。東京から参戦の女優、小野真弓にも注目したいですね。

そして、大トリは、作家としてのシグナチャー進境著しいイトウワカナのintro『わたし-THE CASETTE TAPE GIRLS DIARY-』。introは特に女性ファンが多いですね。個人的に、のしろゆう子、宮沢りえ蔵、好きです。introといえば音楽・映像のAnokos、東海林靖志の振付もチェキラ。バッティングコーチという謎のクレジットで、イレブンナインのプロデューサー、カジタシノブの名前を見つけました。道外公演も多くなって、introはスタッフィングもしっかりしてきました。そろそろ、「intro 組」って呼んでもいいかも。お芝居の見方に正解は一切ありません。物語を楽しむものいいし、役者や作家をを応援するのも楽しいですよ。

 

感動した! 面白かった! 涙した! 心の底から笑った! でも今回は、どうしてそう感じたのか、その理由のようなものを思い浮かべてください。できれば、短くてもいいので、ぜひアンケート用紙に感想を書いてみてくださいね。それであなたも立派な観劇人です! あなたの、その一言が、リノベーションに挑む舞台人たちを勇気づけ、より豊かな劇を生むチカラになるのです。では、劇場でお会いしましょう!

text by しのぴー

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