[観劇雑感]作品の連想に挑戦!『忘れたいのに思い出せない』

投稿者:瞑想子

yhs『忘れたいのに思い出せない』に関連する島崎町さんの驚異的な読書量がうかがえる雑感を読んで、「自分にこれだけのものを連想できるだろうか?」と考えた。うん、小説・漫画・映画・音楽…では無理だった。全く及ばない。
けれど連想ゲーム方式で呼び出せた作品もあったので、ごちゃ混ぜだが書いてみることにした。たぶん今回限りの便乗記事です(笑)。
1)介護施設を背景とした舞台2作品 ー介護からの連想ー

○柴田智之一人芝居『寿』(札幌演劇シーズン 2016-夏の参加作品)

『寿』は介護職員としての立場から描かれており、介護の現実の描写はリアルさと滑稽さが相まって、人間の哀しさを伝えるものだった。紳士的な入居者であるB次郎さんとの心の交流、死、生の道程に思いを馳せてのダンスでの昇華、柴田智之のアートな表現世界を味わえる作品。

○ネビル・トランター『Mathilde(マチルダ)』(やまびこ座海外特別公演、オランダ、2017年7月上演)

等身大の人形を用い、役者の演技では正視しかねる人間軽視の施設運営や老いや障がいの惨めさなどを、ときどきの誇張表現と抑制の効いた構成で見せてくれた。美術も物語もシンプルにそぎ落とされている分、感情移入がしやすい。
102歳の老女マチルダの、ベッドに(比喩的な意味で?)縛られ認識が曖昧になりながらも、激しく燃えるものが潜むことを伝える(ベッドフレーム=鉄棒?での)懸垂シーン。「私と同じ赤毛」の人形に執着して「これがないと彼が見つけてくれない」と白髪頭で叫ぶシーン。亡き婚約者の影をまとい優しい祝福として訪れる死神の、芸の極まった表現! そして、その死が現実では風船がパンと割れるようにあっけなく、病室は速やかに片付けられる様子。心が揺さぶられ、「いいものを観た!」と思える作品だった。

 

2)現代短歌2首 ー老いと死への祝福からの連想ー

女にて生まざることも罪のごとし秘かにものの種乾く季節(とき) 富小路禎子
死の側より照明(てら)せばことにかがやきてひたくれなゐの生ならずやも 斎藤史

葬式で小さな子どもの声が響くのはいいものだ。命の輪の繋がりは救いだ。と、いつも思っているのだけど、『忘れたい〜』での描写にはあまり共感できなかった。宗教はアレだが施設は利用したほうが泥沼を見ずに済むことも多いし、家族に看られるからこその辛さや孤独だってある。もちろん幸せの形はさまざまで、単に作品内の「家族に看取られ孫が生まれ」といういわば「古き良き時代からの王道の幸せ」と私とは関係がない、というだけなのだ。

と思ったときに思い浮かんだのが一首目の歌で、私は罪とは思わないが、孫を持たない我が親を気の毒に思うこともなくはない。
しかしてそれすらも些末なこと。どんな生も死の側からみれば十二分に輝かしいのだ。という二首目は痴呆の母と死の床の夫を介護する悲惨の中で作られたものだ。なんという強さだろう。どんなときも赤く燃えている美しい生なのだ。

 

3)氷室冴子『蕨ヶ丘物語 』ライト・ミステリー編 ーおかしくてやがて悲しき、からの連想ー

若かりし日に読んだ少女小説の、連作短編の一つ。北海道の蕨ケ丘という旧弊な農村で、葬式をきっかけにちょっとしたミステリーを解決する話だったと思う。
実は記憶が怪しいのだけど、危篤も繰り返せば親族には狼少年の通知のごとくなるさま、あちこちに散らばる村人に打ち上げ花火で長患いの老人の死を知らせる合理性、葬式が祭のごとく盛り上がる地域イベントであること、などがコミカルに描かれていたことを覚えている。…老と死の場面に情は当然あるにしても、そこに合理もあるのが人間の滑稽。『忘れたい〜』の重さから離れたくて連想したのかも。

余談だが氷室冴子は岩見沢市出身。著作にはエッセイや大人向けの小説などもある。『いもうと物語』は、北海道の産炭地域の往時の生活をうかがい知る資料としても、児童文学としても優れている作品だと思う。

 

4)女の人生を描いた小説2作品 ー老女の死と残されるつながりの連想ー

○有吉佐和子『紀ノ川』

病む老女にかしずく孫娘、という絵で真っ先に連想したのがこの作品。紀州地方の名家の女主人として生きた花と、花の精神に寄り添うものがありつつも東京で生きていく孫娘の華子との描写で、そのようなシーンがあったと記憶している。『紀ノ川』は女三代の人生物語で、人はただ時代の中で生きて死ぬもの、としみじみ思い知る名作。スペクタクルの度合いは違うが、家刀自の老女の終わりとそれでも続くもの、というイメージの重なりもあるか…?
 
○アニータ・ディアマント『赤い天幕』

旧約聖書の短い記述に名前だけ登場する女性・ディナを主人公とした小説。聖書は父系の物語だが『赤い天幕』は母系と女たちの物語。男に従っているときも、壮絶な悲劇に遭った後も、豊かで逞しい生き方を見出していく物語として創作されている。
ディナは一応産みし女だが息子とは断絶している。一族を失いはるかな異境に生きつつも、血の繋がらない関係性の中に職能や愛を受け継がせ、優しい死を迎える。という意味では、私にとっては救いの終わりのファンタジーだ。
聖書時代の生活描写などがとても興味深い。だが女性向けの作品と思う。男性にはエグい描写もある…(笑)。

 
観劇レポート(感想)はこちら↓
老いと死を祝福するもの yhs『忘れたいのに思い出せない』

text by 瞑想子

SNSでもご購読できます。