演劇を身始めた頃、色々なひとが観劇後、
「いや、あの演出が…」とか
「いい演出…」とか言っているのを聞いて
演出ってなんですか〜?と思っていた。
それから徐々になんとなく、”演出”というのがわかるようになってきたが、今回の公演で腑に落ちた。
今回の風蝕異人街は、一つの一人芝居を、4人の俳優が独自の演出で自ら行うというもの(3人の予定だったが、当日急遽4人になった)。セットは講演会場によくあるような、台が一台あるだけだ。
チェーホフ作の男性一人芝居。
共に仕事をしている妻に命じられ、講演を行うものの、終始妻の愚痴を言って終わる、という作品だ。
柄本明さんもよく行うお芝居らしく、脚本通りやると20分で済むところを1時間ほどに伸ばすそうである。
脚本には明記されていない(であろう)主人公男性の設定をどう考え、表現するか、ということだと思う。あとは、ユーモアのある部分で観客を乗せられるか。
これって少し、教科書を渡された教師みたい、と思った。どう授業をするか、どう子ども伝えたいことを伝えるかは教師の力量次第だろう(書いてみたけどちょっと違うかもしれない)。
・太田有香さん
ジョニーデップがしそうな目の落ち窪んだ少々病的なメイクでの登場。
主人公男性は女性に、妻は夫に変えて演じていた。
脚本に一番忠実な演出だった。
・平野たかしさん
おそらくご自分のお話を交えてらしたのでしょう。実際の血糖の数値など、実感がこもっており面白かった。
が、もっともっと稽古を重ねて欲しかった。
・堀きよ美さん
老いた女性を主人公にし、俳優だった亡き夫の追悼講演で、夫の霊が憑依し、男性一人芝居を行うというもの。
やや複雑な設定だが、二日前からがらりと演出を変えたと聞くから驚きである。引き出しの多さを感じる。亡き夫の服を着る、というのも(実際ぶかぶか)演出のこだわりを感じた。
ユーモアあるおばあちゃんはなんだか滑稽で、堀さんの演技の幅を感じた。終わり方もとてもよかった(死んだ夫が迎えに来てくれたように見え舞台をはけるも、「まだ早い」と言われる)。
・齋藤雅彰さん
シュッとした紳士の身なりに、とにかく雑談部分が面白い。最初はチェーホフの講義から始まり(普通に勉強させていただいた気分)、現代の日本でもわかりやすいよう齋藤さんなりの解釈がふんだんに込められていた。この解釈があることでわかりやすくなっている部分が多くあったと思う。そしてきちんと雑談や解釈が一貫していることがすばらしい。
本当にご本人から出てくる言葉に聞こえ、セリフや構成が身についているように思えた。
最後の妻に見られてから退場するまでのシーンでの怖気付きかたも非常にコミカルでよかった。
ああー、その表現とってもいいなあー!というポイントが多かった。
初めて拝見したけれど、齋藤さんを見られて本当によかった。
急遽4人になったとのことだったが、間少し休憩があるとより見やすかったと思う。
この手の企画は団員同士の刺激にもなるだろうと思う。同じ脚本でも演出や解釈の仕様でここまで幅が出るということは、改めて見てみると面白いものがある。
ヨーロッパなどでは古典のオペラが、長い時間をかけ現代でもなお、手を替え品を替え、さまざまな演出で上演されていると聞く。それを観客がああでもないこうでもないと話せるのもまた面白い。
今回思ったのは、劇団が場を持っている強みだ。
大きな公演でなくとも、小作品をひとに見せられる場、そして今回のようなやや実験的な公演を行える場があること。
チラシを見ただけでは、一つの脚本を複数の役者が独自の演出で行うことがわかりにくかったのが惜しいと思うが、1,500円で楽しむには充分であった。風蝕異人街らしさ、というのは薄かったと思うが、多くのひとが楽しめる企画だと思う。
20170730 19:30- アトリエ阿呆船にて
text by 中脇まりや