[観劇雑感]『extreme+logic(S)』を見て思い出した5冊

投稿者:島崎 町

観劇してから5冊に触れるもよし、5冊のどれかを知っていて(あるいは興味があって)なので劇を観ようと思いたってもよし、そんな5冊の紹介です。
 
 
『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』(『藤子・F・不二雄 SF短編PERFECT版』内に収録)/藤子・F・不二雄/小学館
 
パインソー『extreme+logic(S)』はヒーローたちの物語だ。人間の力を遙かに超えて地球と人類を守る存在。その巨大な力の制御や暴走なども描かれる。例えば主人公のオオツキは、力を制御できずに人をあやめた過去を持つ。感情にまかせて力を少し、入れたがために……。

圧倒的な力を個人(ヒーロー)が背負ってしまう悲劇的側面。僕は藤子・F・不二雄のSF短編を思い出した。平凡で正義感のあるサラリーマン句楽兼人(くらくけんと)はある日突然なんの前触れもなく怪力、飛行、透視などの力を手に入れ、ウルトラ・スーパー・デラックスマンとなる。彼は犯罪者や財政界の黒幕などを正義感で退治していくが、しだいに私刑という性格を帯び始める。

「わるいやつはようしゃしないんだ 虫のいどころによってはやりすぎることもたまにはな」と彼自身が言うように、かっぱらいをひきちぎり、血みどろにして殺したりもする。そんな彼を止めるべく、警察、自衛隊が攻撃するが、もちろんヒーローにかなうわけもない。いまの彼は国家が土下座してなんとか落ち着いた日々を送ってもらっている腫れ物のような存在なのだ。ウルトラ・スーパー・デラックスマンは言う。「こんな気持ちってわかるか。ひとりで車にのってんだ ブレーキのない車に」ゾッとするセリフだ。
 
 
『top10』/ライター:アラン・ムーア/ヴィレッジブックス
 
『extreme〜』の主要な登場人物はヒーローたちだ。『ウォッチメン』『V フォーベンデッタ』を世に送り出した奇才アラン・ムーアが書いたアメコミ『TOP10』は、住人のすべてがスーパーパワーを持つ超人という奇抜な設定だ。驚異的な能力を持つがゆえの魅力、あるいは苦悩が描かれているし、なにより登場人物が個性豊かで楽しく読める。それに、単独ではあまり面白みがないようなキャラも、誰かと絡むととたんに魅力的になるというのも、なんだか『extreme〜』に似てるような気がする。
 
 
『寒い国から帰ってきたスパイ』/ジョン・ル・カレ/ハヤカワ文庫
 
しかし『extreme〜』は単なる明るいヒーローものではない。中盤以降、悲劇性がドライブしていく(僕が7月31日の回に観た「生きたヒーロー篇」はそうだった)。そこで必然的に思い出すのは、大きな力の前に個人の尊前や命が失われていく、踏みにじられていくというテーマで書いているスパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレだ。今回はその中でも格段に読みやすく面白く、入門編として最適かつ『extreme〜』と同じく男女の悲劇的物語というべき『寒い国から帰ってきたスパイ』をオススメしたい。新たな任務を命令され、スパイ活動を再開する男とそこで出会った女。2人の思いは、国家という巨大組織の前には弱い力でしかない。
 
 
『切断』/黒川博行/創元推理文庫
 
さきほど、僕が観たのは「生きたヒーロー篇」だと書いた。『extreme〜』はマルチエンディング方式で、事前に3つの紙を渡され(〜篇みたいな漠然としたものしか書いてない)、後半? 終盤?のストーリーを投票で決めていく。しかし僕が観たものはとても面白く、むしろこれだけで全然いいのでは? という出来だった(僕がマルチエンディング方式をあまり良く思わないせいもあるけど)。

そこで思い出したのが、直木賞作家・黒川博行の『切断』だ。これは人体の1カ所を切断された連続殺人とその真相の話だが、単行本のラストと文庫本では最後の最後が違うのだ。作者があとがきに書いているが、単行本を読んだ知人の意見を取り入れ、ラストを変えたらしい。しかし文庫版の解説には単行本のときのラストがどうであったかも書かれている。それを読んだ僕は、絶対変える前のラストの方がよかったと思った。変更なんて余計なことだ。自分の信じた物語を書けばいい。『切断』も『extreme〜』もそう思う。
 
 
『リサ・ステッグマイヤーのグローバルキッズを育てる! 』/リサ・ステッグマイヤー/小学館
 
最後にいきなりこの本だけど、劇本編を観た人にだけわかるおまけ。まあ、少しは遊びの要素も入れないとね。というわけで『extreme+logic(S)』を見て思い出した5冊でした。5冊から劇に興味を持つもよし、劇から5冊に入るもよし。
 
 
2017年7月31日(月)19時30分〜21時35分観劇(3日目)。BLOCH。

text by 島崎町

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