ギャグ推しとあなどることなかれ。 パインソー『extreme+logic(S)』

脚本の川尻恵太と世代が同じせいか、パインソーが好きなのである。

パインソーの舞台を初めて見たのは2015年の『NamuH』、川尻恵太脚本の初見は演劇シーズン2014-夏の『夜明け前』だった。これらを見た時の衝撃が大きかったことを鮮明に憶えている。

きちんとスベっていないギャグを組み入れつつ、物語の構成ではキメるところをキメてくる。自分にとっては「完成度の高い、同世代の作った演劇」を見つけたような気がして、以来”川尻恵太×山田マサル”タッグのファンになり、今に至るのである(イナダ組の『ライナス』を見た時も、同様の完成度を感じたが、こちらは作者の世代がやや上なせいか、見せる対象世代も少しだけ上であるように感じた)。

今回の『extreme+logic(S)』も、例に漏れず完成度の高い作品のように感じた。テーマとしては、ヒーローとは?平和とは?といった、そこまで特異なものではなかったが、そこに「パインソー節」が加わって、期待値に劣らないクオリティになっていた。

まず最初に登場する山崎亜莉紗。いつものように目がキマッていた。このやや狂気めいた表情がパインソーの「ヤバみ」のベースになっているような気がする。

氏次啓のマヨネーズマンは安定した笑いもさることながら、終盤の切ない演技にも地力が光っていた(彼は前述のイナダ組『ライナス』でも、なるほど同様に笑いと哀愁の中核を担っていたことを思い出した)。

たねだもときの強いなにかは終始、半分ふざけているような役どころで芝居の世界と現実の世界を行ったり来たり。作品をよりカジュアルなものにしていた。

倖田直機は風蝕異人街での印象が強いせいか、発声や動きの堅実さが印象的で、『仮面ノリダー』でのファンファン大佐よろしく、本作品の「ヒーローもの」としてのクオリティを担保していた。

熊谷嶺は前回の『そう しそう あい』でパンチの効いた刑事役がヒットしていたのと同様に、今回もコメディ・シリアス双方にアベレージの高い演技でストーリーの土台を作っていた。

山科連太郎は素面もアナーキーな人格なのだろうか。ギャングという役どころがマッチしており、ホームグラウンドの「きっとろんどん」が人気急上昇中ということにも頷けた。

新たにパインソーに加入した泉香奈子と東京から客演の高橋良輔の演技は特に声が”演劇然”としていて、ナビゲート役として脚本のイメージ・世界観の輪郭をはっきりとさせていたように感じる。

そして田中温子(NEXTAGE)。パインソーには初出演とのことだが、台詞回しや歌が上手なことなども相まって、SF的な世界観に説得力を与えていた。個人的にはもっとボケさせて欲しいとも思ったが、アドリブ(?)時のリアクションの空気読みなど、パインソーとの相性は良いように感じた。というかパインソーは女優の扱いが上手いのか、北海学園大学演劇研究会の五十嵐穂とともにとても魅力的に映った。

赤谷翔次郎はさすがの手練れ。今やパインソー=赤谷と感じるほど安定していたが、こちらも個人的にはもっともっと笑いの分量が多くても良かった気がする。『そう しそう あい』の教祖役のような爆発力も欲しかったが、ストーリー的に仕方なしか。今回の役どころに際してダイエットに励んだようでなかなか男前に仕上がっており、このまま痩せていくことができればTOKIOの長瀬智也的人気も狙えるのではないかと思うほどだった。

そしてマルチエンディング。私が観た回は【「理にかなった理不尽。」現実の告白編】だった。こじつけや無理やり感は感じられなかったし、どこからストーリーが分岐するのかとても興味深く、他のエンディングも見てみたくなる内容だった。これで再観者が増えるなら、やる側・観る側ともにメリットのある仕組みだろう。

ラップや歌、シリアスな演技と重いテーマ。笑いの中に宿る説得力。寿司でいうならウニいくら刺身丼的な、ピザでいうならフォーシーズンズ的な「お得感」を提供してくれるエンターテインメント作。役者個々のポテンシャルがストーリーを際立たせ、ストーリーが役者を光らせる、相乗効果の高い舞台だったのではないかと思う。

余談だが、先輩のバイト先が何屋だったのか、ヒーロー缶の製造工程、さらにはここにかつてのパインソー勢(ツルオカ、渋木こうすけなど)がいたならどうだったかなど、もしこの作品を観た人と酒席で一緒になることがあればぜひ議論したい。観る側の大きな楽しみであるこの観劇後談話「リアル観劇人の語り場」に持っていきたい作品のひとつになった。

さらに余談。ちなみに私のパインソー歴代ベストシーンは、『NamuH』の終盤、ツルオカと原愛弓(今はともに札幌演劇から離れているがぜひまた観たい)の一節「…私がさっきなんて言ってたかわかる?」「……。めっちゃ、メラメラ。」「そんなBBクイーンズみたいなこと言ってないよ。」の、あの緊張と緩和である。

2017年8月2日14:00 BLOCHにて

text by POLPO

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