今年もこの季節がやって来た。
4月16日に鹿児島上場公演を皮切りに、九州、四国、本州と北上をつづけていた旅劇団どくんごの一座は、7月15日、ついに北海道に上陸し、弟子屈町川湯、鶴居村、室蘭、帯広と公演を終え、8月8日からの札幌公演がはじまった(12日まで。10日休演)。
おそらく札幌の演劇人で「どくんご」を知らない人はいないだろう。野外にはられたテント劇場でおこなわれる圧倒的な舞台・パフォーマンス。全編を通して心が躍動するグルーヴ感で、夏の夜の円山公園、自然の中で舞台と客席が一体となる高揚感はたまらない。
はじめ、この劇にストーリーはないと前口上でのべられる。しかし僕にはストーリー性が感じられる。「どくんご」の芝居は、一見つながりのない短い劇の連なりでできているが、1つ1つには共通の”なにか”がある。だからバラバラのように思えた短編が、すべてを観終えたあとには1つのしっかりとした塊のように感じられるのだ。僕はそれをストーリーと呼ぶけど、人によっては”感情”であったり”イメージ”であったり”創造”であったり、なにか別の言葉で呼ぶのかもしれない。
今回の公演はタイトルにFINALとあるように、『愛より速く』の集大成的なバージョンだろう。昨年も公演した『愛より速く』をさらに濃くして、テンションをあげ、より精度をあげたお芝居だ。前回と同じキャラ、同じ(ような)演目もあるが、昨年と印象はずいぶん変わる。1年前にみたあのキャラ、あのフレーズ! とうれしくなる一方、去年とは違う高揚感が自分にあることに気づいた。
今回のツアーは、鶴居村の7月24日公演までは『愛より速く 2号』と題していたが、25日からは『FINAL』と名前が変わっている。『2号』と『FINAL』の違いはわからないが、役者が1名交代するので、それもあるのかもしれない。
しかし『FINAL』で加わった役者・時折旬の怪演を観られたのは本当によかった。オリオン座のベテルギウスを地球から観測するために必要な機材を説明する、ただそれだけのことで客を爆笑させ、語り終えたあとに万雷の拍手をあびる。その姿、語りのモンスターだ。また、(曲名は伏せるが)とある歌をまるまる1曲絶唱したときにおこる感動。曲の選び方、歌い方、その顔、汗、つば、情念、回りのコーラス、盛りあがり、夏の夜、自然、木々、円山公園、僕たち、観客、もろもろふくめて、「どくんご」という場が生まれる、爆発する。すごい、なんだこれ。
まだまだ語り尽くせない「どくんご」公演。札幌は11、12日で終わり! 観ない理由はないだろう。理由はあっても観るしかないし、そもそも「どくんご」を観るのに理由なんていらない。とにかく観ればいい。観るしかない。観ればわかる。
「どくんご」は、15日の函館公演ののち北海道をはなれ、本州にもどって南下していき、10月23日、鹿児島の最終公演で今年の旅を終える。毎年僕は、「どくんご」がやって来たことで北海道の夏を感じ、一座が去っていくことで、夏はあと少しなんだなと少し寂しい気持ちになる。陽気で楽しい集団が、喜びと寂しさを置いて去っていく。まるでかつて存在していたサーカス団みたいに。目覚めると、あれは夢だったのかもしれないと思うけど、心の中には、前夜の高揚感がまだしっかりと残っている。それは、いつまでも消えない幻のように、いまもまだ僕の中にある。
2017年8月9日19時30分~(2日目) 円山公園自由広場
text by 島崎町