イギリス笑劇の傑作が、札幌の新喜劇となって登場。「笑わせたい」という思いがよ~く伝わる作品。前回のシーズン登場の際より、さらにバージョンアップで、ダブルキャスト4組というチョイスに迷う豪華メンバー。私が今のところ観たのは、藤尾+江田コンビと、明+江田コンビ。こうなったら納谷バージョンも観たくなる。知り合いの中にもリピーター続出の模様。お盆に通常業務の身には、こんな笑えるお芝居がありがたい。
劇場で演出の納谷氏と挨拶した際に、「笑わせるぞという意欲がすごく伝わります」と言うと、「あ、ちょっと貧乏くさいですか?」と言われて大笑いしたのだが、確かにレイ・クーニー作イギリス笑劇というには、べたっとしている。札幌の吉本新喜劇風である。今回は、さらに大家のおばあちゃん漫才とか、若手グループの学芸会が組み込まれて、観客をウォームアップして親しみやすくする努力があり、芝居の前から観客に、さあ笑うぞ、という準備をさせる。私には余分、というか過剰なサービスだったが、会場の大きさの考慮、普段演劇を観ない人々への配慮が、痛いほど感じられた。よっしゃ、宣伝しとく、と応援したくなる。
さて、ダブルキャストとなれば比べられて当然。いずれもいいけど、敢えて言うなら、ヒロシ役は、藤尾氏のコメディアンぶりもよかったけれど、私は明氏がよかったと思う。役者としてのリズム感、音感が冴えていたし、ラスト近くの場面での悲壮感がよく出ていた。以前にこの劇の感想を書いたときに、レイ・クーニーが、「笑劇の主人公俳優は、悲劇が演じられる役者でないといけない、」と語ったことを書いた。舞台で起こることが、本人にとっては悲劇であって、それを懸命に回避しようとする姿が滑稽なのだ。その意味でも、明氏の悲壮感が、終盤の主人公が心情を吐露する場面で説得力を増す。ゆえに巡査長の行動も正当化されかっこよく去っていく。この人情を訴える最後が、新喜劇風にべたっとしてよいのだよ。巡査役は、菊池颯平氏と梅原たくと氏。こちらもいずれも好演ながら、梅原たくと氏のほうが、人のよい田舎者風巡査という人物像をより明確に表現できていたと思う。菊池氏、のどを大切に。納谷氏バージョンを観ていないので比べられないけど、江田氏のコメディアンぶりは安定。
主役の脇を固めた妻役で、ゲストの小野真弓氏、小島達子氏はともに好演。ラストのどんでん返しに、観客席からは「ああ!」とか「ええ!」と、驚き、楽しむ声が聞こえていた。巡査長の小林エレキ氏は、さすがの演技。大いに存在感があり、魅せた。このがっちり、ばっちり固められた脇に、さらに芸達者な廣瀬詩映莉ちゃん。イレブンナイン喜劇に彼女は欠かせない。桃井かおりも田村正和も応援してると思う。
人間は間違ってばかり。法を犯してまで守るものとは何か。それは愛か。と深い内容を笑いで包んで考えさせる。男性も女性もオカマもクレーム無きよう、うまくバランスをとった演出、お疲れ様。
2017年8月13日18時、 2017年8月14日19時、かでる2.7にて観劇。
text by やすみん