女の知恵も金次第? イレブンナイン『あっちこっち佐藤さん』

●ギャルソンに扮した若手キャスト8名が会場係を務め、会場を練り歩いてから舞台に上がった大家のおばあちゃん役2名とともに前説ショーに参加。オープニングと、終盤に入る前にもギャルソンたちが登場。人数による大舞台感!
狭い室内で展開する『〜佐藤さん』は、本来はスケールの小さい作品だが、賑やかに盛り上げる工夫によってホール全体に届くエンターティメント作品になっていた。大きな会場全体を盛り上げようという演出が素晴らしい。
(個人的な好みをいえば、タロウのウロウロシーンでのギャルソンたちの登場は長い&ストーリーの転調がわかりにくいと感じた)

●小林エレキの存在感が際立った。舞台のサイズにふさわしい演技! 小野真弓の佇まいのキュートさも空間を越えて伝わるものがあり、ヒロシがうっかり惚れるのも納得。

●明ヒロシ×江田タロウバージョンの千秋楽で、両名とも若干、声が…。タロウの聞かせどころのセリフが聞き取れず残念。イレブンナインは今後もロングランが多いので(ですよね!?)、ぜひに、ラストまで聞きやすい声をキープするケアをしていただきたく…。

●場面の盛り上がりに奉仕する笑いを連打する演出。強打が続くので人間のリアルを感じさせる物語としてはわかりにくいと感じた(私は笑いながらもぐっときたりぞっとしたりしたいタイプの観客)。声の大小、スピードの緩急があれば…?
しかし、この強打2時間超えの長丁場をロングランで上演しきったということは素晴らしい。お疲れさまでした。

●「婦人警官なら許さなかった」という巡査長のセリフ、2014年の再演では、経験なクリスチャンという設定で「だけど許す」という行為に人間というもののあり方を感じさせた。
「婦人警官なら〜」という発言は、女性は個々の事情を斟酌せずに重婚を許さない、とも聞こえてあまり心地よくなかった。やすみん氏の投稿には「クレーム無きよう、うまくバランスをとった演出」とある。つまりそのような女性が多いという前提での演出家の判断か。いやいや、性別を超えて胸を打つほどのヒロシの心情であってほしいところ。

以下、ネタバレがあります。

●2014年の再演でも思ったのだけど、原作から改変されているラストのオチが腑に落ちない。冒頭の電話のシーンなど含めて妻二人のオロオロの筋が通らず、物語が成り立たなくなるように思う。笑いではなく物語を楽しみたい派としては残念。

●みんながハッピーな終結は、大抵の観客にとっては心地よいのかもしれない。動員数を目標に掲げたエンターティメント作品としては正解なのだと思う。
だが私は、「女二人が男を仲よく分かちあう」「それが女の強さ、女の知恵」というファンタジーはちょっと受け入れがたい(笑)。男にはそのように見せておいて、背後ではもの凄いつばぜり合いをするのが女というもの、という実感があるからだ(笑)。女二人がどのように出会ってこのような関係を築くに至ったのか、ちょっと想像ができない…。

●ヒロシがアラブの石油王並みの金持ちなら、女の強さと知恵も働くかも? あるいは、タクシードライバーだが大富豪の隠し子でいずれ遺産がもらえる、とか。
おお、そうなると取り分を増やすために子作りに精を出しそうだ。子どもがいれば裁判になったときに有利かもしれないし。…あれ、これじゃあ『大奥』だ(笑)。
 
 
2017年8月17日14時 かでる2.7にて観劇

text by 瞑想子

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