イレブンナインは札幌演劇のファイターズになるか? 『あっちこっち佐藤さん』

イレブンナインの凄みを見た気がする。

450席のかでる2・7は平日でもほぼ満席。前回公演から数倍大きくなった会場を、(少なくとも私が見た回では)すっかり圧倒していた。

公演の規模が大きくなるというのはこういうことか、広い客席が笑いで揺れたときの一体感は幸せな感覚だった。

役者がアクセル全開の演技で客席を沸かせば、「次はどう来る!?」と観客の期待が舞台に投げ返される。その期待に奮起するように役者の芝居はさらに加速し、原作ありきとはいえ”納谷テイスト”満載の破綻しそうでしないストーリー展開が観客を引っ張り、会場全体はうねるように笑いを連発。ラストのどんでん返しでは驚愕の声が上がり、終演時には喝采が鳴り止まなかった。

ストーリーについては他の方の投稿が上がっているので割愛するが、笑わせに笑わせて最後にホロリとさせる笑いと悲劇のバランスは、英国の原作だが、私には落語の人情話のような風情が感じられた。

お隣タロウ(納谷真大)は作務衣の上半身がビショ濡れになるほどの熱演で笑いを取りに来る(前回シーズン公演で見たときはヒロシ(明逸人)のニットベストとワイシャツがビショ濡れだった)。

佐藤巡査長(小林エレキ)のずーずー弁はとにかく秀逸で、シリアスな場面での「ずーこん(重婚)」にヤラレた。今回の演劇シーズントップバッターのyhs『忘れたいのに思い出せない』終演後からの稽古参加とは思えない! スゴイ。 

ハナコ(廣瀬詩映莉)のコメディ勘も存分に発揮されていて、特に自分がボケた後、脇に回った時のあのにくたらしい動きと表情が最高だった。さらに彼女の泣き芸(特に笑かす方)は今や鉄板で、公演時にはぜひ持ちネタとして毎回ネジ込んでいただきたい。

サチコ(小島達子)とカズコ(小野真弓)も安定の芝居力とオーラで、観ていて安心だった。

若手役者陣と老婆二人による前説もエンターテインメントとして開演前の”笑う雰囲気”を作っていたし、演劇を見たことのない人や子どもに対しても親切だったように思う。

結果、12公演で4,000人を超える動員があったそうだ(演劇シーズンTwitterより)。札幌の劇団としては異例の数字だそうで、Youtubeでの毎日の事前PRや役者陣が大通でチケットを手売りするといった、劇団を挙げての集客のための活動の成果に違いない。演劇シーズンを入り口に演劇を観始めた私と同様に、今回の公演で初めて演劇を観た人たちが、演劇の、イレブンナインの「ファン」になったとしたら、それはとても素敵なことだと思う。

看板スターに多くのファンが付き、公演規模は拡大、集客も安定することで若手の育成も可能になる。そしてファンがファンを呼び、他ジャンルやメディアを巻き込み大きな存在になっていく。北海道におけるファイターズのような存在にイレブンナインがなるのかもしれない。そんな夢さえ見せてくれるような公演だった。

text by POLPO

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