演劇シーズン最終演目、introの「わたし~The Cassette Tape Girls Diary-」の開演を待つ。暑い夜だ。扇子でパタパタと首筋を仰ぎながら、ステージに映し出されるマルの中、「わ」「た」「し」の文字が戯れ合っているのを見る。「たわし」になったり「したわ」になったりするのを見逃すまいと目を凝らしていると、後列に初々しいカップルが着席。付き合ってまだあまり日が経たないんでない?と振り返って見たりはしない、なんぼなんでも。
「わあ、初めて。」「俺も。」「なんかすごい。」「ステージに靴が並べてあるよ。」「ほんと〜、なんか面白い。」「俺、飲み物買ってくるわ。何がいい?」「う〜ん、なんでもいい。」「そーゆーの苦手。何がいいの?」「甘くないやつ。」「お茶?水?」「なんでもいい。」「じゃ行ってくるね。」・・・「買ってきたよ。」「何買ってきた?」「いろはすの梨と桃。どっちがいい?」「梨。」
そんな二人のCassette Tape Girls Diary。
観劇デートか。初めてとは嬉しい。いっそ静岡県みたいに婚活観劇でも企画したらどうだろか。などと思いつつ、さらにパタパタ。暑い。
前列のカップル、女子がやや声を高くして、「へ〜え、そんなに可愛いいんだ。可愛い子がいたんだ。」「いや、男の人もいるよ。男も含めてだよ。」「ふ〜ん、そうかな。」「なんかみんな可愛いんだよ。」「へ〜え、そうかな。」「なんでそうなるかな。」
そんな二人にCassette Tape Girls Diary。
彼女を連れてリピーターとは嬉しい。弁解に加勢してあげようじゃないか。
若い人でいっぱいのコンカリーニョの暑い夜。会話に心当たりのある方、脚色ご容赦。劇場の神の祝福を受け給え。梨と桃。いいチョイスだ。さあ開演。
text by やすみん