【特別寄稿】札幌演劇シーズン~あえて観客数にこだわる 寄稿者:荻谷忠男

 今日は9月1日。小学校時代は、二学期スタートのこの日になっても、まだやり残した植物採集のために朝もやの中、近所の山の雑草採取に焦っていたし、親父があらかた作ってくれた工作物が先生にバレないかと不安いっぱいに登校したことを思い出します。72歳になった今でも旧盆過ぎになると、世の小学生たちの宿題は大丈夫かと心配になるんです。

そんな変に落ち着かない日々がトラウマとなっている8月下旬。今年は、終盤を迎えた「札幌演劇シーズン」が新たに気になる存在となりました。

4月からは、過去11シーズン務めた実行委員長を退任した“横浜のご隠居”の身で、しかも在任中のシーズン業務はほとんど事務局の飯塚局長、三上局次長にお任せでしたが、60年前の宿題を気にしているくらいだから、育ち盛りで手放した「演劇シーズン」の動向はやはり気になります。

観客数報告メールが、毎日各劇場の担当者から実行委員会関係者に送られてきて、今シーズンの盛り上がりは伝わってきました。だから、このままいけば観客数は大幅なシーズン新記録になりそう、と千秋楽の発表が気になっていました。すると参加常連の劇団では最も観客数と無縁だった最終公演のintroが平均120人の支持を得たではないですか。結果は、51公演で合計8,439人。

組織の長が後任に委ねるときは、その組織(イベント)が伸び盛りの時に委ねることが鉄則です。これまでの最多入場者シーズンは、私の最後のシーズンとなった「2017-冬」ですから、それを上回ったことでホッとしました。後を引き受けて下さった樋泉実実行委員長の就任祝いになりました。

演劇シーズンの観客数が一昨年あたりから伸び始めたころ、「数も大事だが、質に重きを置くべきだ」との声が聞こえました。

確かに、公演内容の充実、レベルアップは当然必要です。このイベントの母体である「演劇創造都市札幌プロジェクト」の当初の目標は「100人の演劇人が活躍する街」づくり、でした。脚本家、演出家、俳優、音楽、舞台制作、照明、衣装……いろんなジャンルの演劇人が演劇でメシが食える街、それが市民、道民の生活を豊かにする。それには、観る人を満足させる内容の充実、技量が求められることは自明の理です。
私は、札幌演劇シーズンを通して、舞台の質向上と演劇普及、演劇ファン拡大を目指しました。そのバロメーターは観客数だと思い、数を重視してきました。多くの人に見てもらって気分の悪い演劇人などいないはずです。独りよがりな作品、仲間内で傷を舐めあっているような舞台から脱皮するチャンスを「観客数」はプレゼントしてくれるはずです。職業としての演劇人を目指すなら、社会の目を意識するのは必要です。もちろん、いたずらに社会の目に右往左往したり委縮したりするべきではありませんが。

シーズンの十八番=レパートリー作品の常打ちを必要としたのも、「数」を意識したからです。小室明子さんが投稿原稿で指摘した、社会の認知を得るためであり、演劇シーズンの安定、恒久化のためには、「数」の効用を活かしていってもらいたいのです。

今シーズンで私が観たのはyhsの『忘れたいのに思い出せない』だけでしたが、そこでカーテンコールに出くわしました。劇団四季の劇場やKitaraでは目にする光景。でも、演劇シーズンではあまり記憶がない。だいたい、役者たちが観客への感謝の念が乏しいのか、サービス精神欠如のせいか、幕が下りたら最後、余韻が漂う舞台に戻ってこなかった。なんとまあ、もったいない。ファンとの共有の場を捨てているし、観劇感想アンケートに答えようとする気分をそいでいます。
聞けば、他の公演でもカーテンコールが定例化したシーズンであったという。後世、「2017-夏が転機だったね」と語られるかも。

嬉しかったのは、シーズンを支えてくれた劇場の各公演担当者、その日のカーテンコールやリピーターの増加に感激しているさまが観客数報告から伝わってきたことです。一番舞台に身近なバックヤードを感動させることができるなら、演劇シーズンはまだまだ進化する、と楽観している楽隠居です。

寄稿者:荻谷 忠男
札幌演劇シーズン前実行委員長

text by ゲスト投稿

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