笑いを越えたものが見たい 教文短編演劇祭 決勝

例年、決勝しか観ていないのだけど、札幌組の作品はどうしても笑いを取りにいってしまうのだよなぁ、と今年も感じた。短編のコンペティションで観客票を得ようとすると、それが手っ取り早いのはわかる。そもそも、札幌の観客は笑いたくて演劇を観ている人が多いようにも感じる。…あれ、じゃあ笑いを取りに行くのは当然なのか。いやそれでもいいのだけど、笑いを越えた「何か」もあってほしいのです。ほんのちょっとでいいから。

2016年の『INDEPENDENT 』札幌公演での3rdSeasonSelectionを観たときに、私は次のようなツイートをした。


長く札幌演劇の笑いについて考えていた。今回、「同じ戯曲でも演出・演技次第で、コントにも喜劇にもなる」というように理解した。戯曲を越えるものを演出し、演出を越えるものを演技するとき、「笑わせつつちらりと共感を呼ぶ人間のドラマ」が生まれる。


正しいかどうかは怪しいのだけど(笑)、私としては今のところこの考えを私的基準として採用している。

なので、星くずロンリネス『言いにくいコトは、、』は、「戯曲を越える(行間の物語の)演出、演出を越える(人間のリアルを見せる)演技」という点では物足りないものを感じた。
居酒屋でのサラリーマン二人の会話で構成された前半。ツッコミ役の先輩をそこに置いたままで、会話内で提示された「女性の親への初の挨拶、結婚の許可の申し出」の場を出現させ、早口言葉を折り込んで展開する後半。序盤から仕掛けの予想は付くのだけど、たたみ掛けて圧倒していくので面白い。

でも、笑いのための作品に思えたのだ。いや、赤谷翔次郎の居酒屋サラリーマンっぷりは見事だったし(パインソー『extreme+logic(S)』では気になった猫背もここではむしろぴったり)、熊谷嶺は初めての挨拶に行く人間の緊張感を上手に演じきっていたし、複雑な早口言葉を全て言い切ってみせた滑舌は素晴らしかった。俳優賞受賞も納得。手に汗握るライブショー。

…ほぼそのままで、本当にちょっとした味付けだけで、私という観客をも魅了する作品になる気がする。いや、作演家は「そんな客の機嫌は取らない、自分が面白いと思うものを狙い続ける」と思っているかもしれないけれど。

「笑わせつつちらりと共感を呼ぶ人間のドラマ」の不在は、Gフランケン『アフター10』も同様。けれど、こちらは物語が破綻している馬鹿馬鹿しさを楽しむものだと受け取ったのと、役者のパフォーマンスの熱量に圧倒されたのとで、演劇らしい面白さだと感じた。たぶん今の私は、頭で考えた仕掛けと身体が伝えるものとでは、後者をより面白く思っているのだろう。「叫び」などのパフォーマンスはやり過ぎにも感じたけれど(笑)。
場面が固定されていて役者の動きも少ない『言いにくいコトは、、』に比べ、舞台全体を使い切っている躍動感も魅力的だった。

記念日を妻と過ごすために、残業を押しつける会社から脱出する男。その男を連れ戻そうと、ゴルゴ13か特殊部隊か、という動きで追う上司と同僚たち。逃げるうちに妙な島にたどり着いて、現地民とハーレム状態に…というラストに「半年後」という設定は必要かどうか、と審査員が議論していた。私は「なくていい」に一票。

身体が伝えるもの、という点で、東海連合『怪盗パン』は物足りなく思った。役者の声と線が細くて押してくるものが少ないのと、動きが少ないのに展開がループするのとで、後方の席からでは集中を持続できなかったのだ。会場の広さのせいだろうか?
講評では審査員が素敵さを熱弁していたし、構造的には素晴らしい作品なのだろう…。

アキバコ『10 Years After』は、決勝に参加した4作品の中では、いわゆる芝居らしい芝居。10年前にちょっとしたことで音信不通になってしまった友人の危機を知り、あらゆる苦難を超えて(海を泳いで渡ったりして)会いに行く、というドタバタと友情(?)の物語。「蝦夷共和国の独立」というトンデモ設定もコミカル展開で違和感はないのだが、その顛末が宙に浮いたままでも気にならないぐらいの「二人の物語の結末」があれば…とは、審査員の意見に同意。
それにしても、こういった「(苦難を超えて)会いにいきます」系の演劇はよく見かける気がする。女性脚本家に多いような。鉄板のファンタジーなのだろうか?

余談。Gフランケンが前フリとして用意した「映像」が、一番面白かった(笑)。クラアク芸術堂の代表の小佐部明広が、なぜクラアクで短編演劇祭に参加せず、派生ユニットのGフランケンに脚本を委ねたのか…の説明を、企業のプロジェクト会議仕立ての一幕に仕上げたものだ。
演劇祭などで勝てない、短編演出は苦手、公演が赤字続き、といった自虐ネタは内輪ウケになりそうなところだが、事情を知らない人も笑えると思う。知っていれば爆笑。自分をさらけ出しつつのショーアップは、野次馬観客としてはとても楽しめた。何より、連敗と赤字に苦悩する小佐部の演技が素晴らしい(笑)。審査員が「俳優賞次点」と言ったのもあながち冗談ではないかもしれない。

2017年08月13日 14時〜 札幌市教育文化会館 小ホールにて観劇

text by 瞑想子

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