【特別寄稿】教文演劇フェスティバル2017 短編演劇祭 寄稿者:南参

今年で開催10年目となる「教文短編演劇祭」。愛知県・長久手で行われていた「劇王」という短編劇イベントを参考に、ルールなどを独自のものにして行われているものです。

テーマに沿った上演時間20分以内のオリジナル作品(今年のテーマは「10」)で、審査員と観客の投票で最多得票の作品がチャンピオンとなります。今年の副賞は教文小ホール使用権3日間(ただし2018年度の平日などの条件あり)、9月に長久手で行われる「劇王Ⅺアジア大会」への出場権、そして賞金10万円です。

私は2013年にチャンピオンとなり、翌年2014年に防衛を失敗し、そして昨年からは台本審査と予選・決勝の審査員を務めさせてもらいました。今回は個別の作品について、というよりは全体的な感想を述べさせて頂ければと思います。

まず予選Aブロック(2017年8月12日14時~)の4作品は以下の通りです。

・げき工房エコボット(札幌)『えんとつとおつきさま』
・劇団ジプシー(札幌)『永遠の10』
・イチニノ(茨城)『誤差』
・Gフランケン(札幌)『アフター10』
(上演順)

煙突を主人公に児童向けの絵本のような『えんとつとおつきさま』、風俗嬢と借金取りのやり取りを描くシンプルなコメディ『永遠の10』、ハグ・カフェで出会った男女の強烈な自意識・心象風景を抽象的に描いた『誤差』、ブラック企業から逃走を図るサラリーマンのハチャメチャな脱走劇『アフター10』というバラエティに富んだ4作品となりました。
ここで私の審査基準について簡単にお話します。時間制限があるだけでジャンルが全く異なる演劇作品の審査は、短編演劇祭に限らず審査基準がとても難しいものです。いわば最低限のルールを決めただけの異種格闘技戦に近い。どうしても好みも出てきてしまいますが、私が審査する場合は作品の精度・クオリティの高さや、アイディアの面白さなどを重要視しているつもりです。なお、他の審査員の基準は知りません。

私は『誤差』に一番得点を入れました。劇の内容はかなり難解で深く理解できたというわけではないですが、演出のアイディアや演技のパワーを高く評価しました。
結果としては『アフター10』が紹介映像から客席を沸かせて圧勝し、決勝へと駒を進めました。

続いての予選Bブロック(2017年8月12日18時~)の4作品は以下の通りです。

・楽園王(埼玉)『延長戦ガール』
・おでん組(札幌)『ケジメ~青春に逃げ道なし』
・アキバコ(函館)『10 Years After』
・星くずロンリネス(札幌)『言いにくいコトは、、』
(上演順)

隕石で死んだ主人公が延長時間をもらって想いを伝えようとする『延長戦ガール』、30才近くなっても芸能の夢に向かって進もうとする『ケジメ~青春に逃げ道なし』、離れ離れになった友人に会いたい一心で函館へと向かうロードムービーのような『10 Years After』、恋人の家で結婚の挨拶に赴いた主人公が「言いにくいこと」をぶちまける『言いにくいコトは、、』の4作品。偶然にも、どことなく似たようなテーマを持つ4作品が揃いました。

私は『言いにくいコトは、、』に一番得点を入れました。話の展開として読めてしまうし、無理矢理感が出てしまうものの、プレッシャーのかかる演技を要求するアイディアに役者が見事に答えたということ、そして演技力の基礎的な高さを評価しました。客席も沸きに沸いて、票数も圧勝。見事決勝へと進みました。

Bブロック2位となった『10 Years After』は、得票率でAブロック2位であった『誤差』を上回り、ワイルドカードとして決勝進出が決まりました。

そして翌日の決勝(2017年8月13日14時~)は、ディフェンディングチャンピオンである「東海連合」も参加しての4作品。

・東海連合(名古屋)『怪盗パン』
・アキバコ(函館)『10 Years After』
・星くずロンリネス(札幌)『言いにくいコトは、、』
・Gフランケン(札幌)『アフター10』

結果から言ってしまうと『言いにくいコトは、、』が111票で優勝。以下、2位『アフター10』81票、3位が『怪盗パン』48票、4位『10 Years After』39票でした。
チャンピオン・東海連合の『怪盗パン』は『レ・ミゼラブル』をモチーフにし、人生の選択の数奇さを描いた作品と感じました。ただ、動きが少なく徹頭徹尾淡々と進むために、テーマが見えてくる中盤まで集中して見ることが出来ませんでした。

というわけで、ようやくチャンピオンベルトが北海道に返ってきました。

3年ぶりにチャンピオンベルトを取り返した星くずロンリネス・上田龍成はステージ上で「札幌演劇シーズンとか他にも夏のイベントあるけど……うち以外にも面白い劇団があるんだからどんどん短編演劇祭にも参加して欲しい」と言っていた。

このイベントが始めた10年前、札幌の演劇状況は決して楽観できるものではなかった。実行委員長の齋藤雅彰氏が「札幌演劇の質を高めるとともに、一般の観客にも演劇に触れやすいイベントにしたい」と始めたのが短編演劇祭だ。他地域の演劇人との交流を図ったり、東京などの一線で活躍する演劇人に審査員に作品を評価してもらう場をつくるために、とやって来た。私自身も以前は参加者として他の団体との切磋琢磨や、名古屋などの他地域の演劇人と交流を持てた貴重なイベントである。

しかし上田龍成の言葉通り、今は夏・冬と「札幌演劇シーズン」があり、地元の参加劇団にとっては一般市民との大きな接点となってきている。また、戦う場としては「TGR札幌劇場祭」もある。こうしたイベントを重ねてきた結果、10年前に比べて明らかに札幌演劇は活況だ。手前味噌だが(yhsだけでなく)、芝居の質も高まってきているように感じる。となると短編演劇祭の魅力は何なのか……と考え込んでしまう。

今年の台本審査の15作品を読み終えた時に「今年はヤバい」という言葉が口をついて出た。近年使われるいい意味での「ヤバい」ではなく、昔ながらの、本当にまずい「ヤバい」という意味でだ。
2018年は9月上旬に開催されることが決まっている。ということは、少なくとも札幌演劇シーズンとはかぶらない……どうなるのだろう。私は審査員やらないつもりだけど。……いや、出場しませんよ?

寄稿者:南参
教文演劇フェスティバル2017 短編演劇祭審査員、yhs代表、脚本家・演出家

text by ゲスト投稿

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