期待と懸念と。──パインソー『extreme logic(s)』

パインソーさんの公演は極力拝見するようにしています。そのちょっとキツすぎる直接話法の下ネタには辟易することもあるのですが、片側で、いつもその場では掴みきれない「お題」を与えられて、考えながら帰るのが癖になっています。

2013年の初演は2回拝見しました。それまでの公演では作品タイトルはほぼ記号に過ぎなかったので、『extreme logic(s)』という単語の羅列にも特に何も考えず、「いつもの」流れの作品を想像して客席に着いた自分の後頭部を殴られたかのような衝撃。その年の観劇マイベスト10に間違いなく入る作品でした。それゆえ、演劇シーズンでの再演は嬉しかったし、誰に対してもオススメできる作品だと非常に期待していました。

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今回は、初日と千秋楽の2回を拝見しました。
初日は、キャスト同士の呼吸もいまひとつ噛み合っていなかったかな。それもあって、初見の人には展開がいまひとつ分からなかったのではないかなと。また、今回は「マルチエンディング」ということで、3パターンのうちの一つを観たわけですが、いったい最後に何が起こったのか、初演を観ている僕にも判断がつかない部分がありました。

…と、演出も含めて、ありていに言って「初日」の出来にはかなり腑に落ちない部分があり、よしそれならと、急遽もう1回拝見することにしたのです。

千秋楽は、「千秋楽ならでは」の遊びやアドリブなども満載で、初日とはまた違った意味でのふわっとした部分(笑)もあったのですが、演者のこなれ具合や、映像を使うシーンでの役者の立ち位置の工夫など初日とは格段の出来。また、マルチエンディングの2つ目のバリエーションを観れたことも良かったかなと思います。

以下、今回はいくつかの項目を立てて感想を書いてみようかなと思います。
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■初演との登場人物の違いについて。
初演では、「ヒーローと怪人の立ち位置」にもっと焦点を絞っていたと思います。
今回は、「ヒーロー」の赤谷さんと田中さんがそれぞれに「ふつうの人間」の恋人を持っていましたが、初演ではこの二人(赤谷さんと藤谷真由美さん)が恋人同士のような関係であり、最後に藤谷さんが(今回のような形で)倒れ、赤谷さんの怒りが爆発する、というものでした。
今回は普通の人間との恋、という形で、それぞれのパーソナルな「守るべきもの」や「愛」という部分が見えやすくなっていたように感じました。
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■ストーリー展開の分かりにくさ。
悪を迎え撃とうとしていた筈の自分達の足元が崩れる瞬間に鳥肌が立つ。──それがこの作品のかなりの衝撃なのですが、残念ながら、今回初見だったお客さんたちに明確にストーリーが伝わったかどうか疑問でした。
大事な説明部分で余計なお遊び(スローモーションの多用、しりとり遊びなど)が多すぎたと思います。その演出やお遊び自体はいいのですが、「ストーリーがどう展開したのか」を客が理解できるかどうかという客観的な視点が足りなかったと思います。この作品に限っては、お遊びより、それを優先すべきでした。

そうでなくても、本作のラストは、ヒーローであったヒト(赤谷さん)が自らのパワーを開放して地球を破壊したのか、それとも敵(←実は本当のヒーロー達)を迎え撃ったのかさえ一見分かりにくい。しかし初演では、そこに至る過程については混乱なく観客全員に伝わっていたと思います。今回はどうだったでしょうか。
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■マルチエンディングについて。
最初から僕はこのファンサービスは「誰得」なのか疑問でした。「マルチエンディング」というからには、バッドエンドやハッピーエンドがあると思い込んでいたからです。
しかし、2つのパターンを拝見して、ああこれはラストシーンの視点(どの登場人物をクローズUPするか)程度の差で、物語のエンディング自体には大差ないのだな、と理解しました。
それならまあアリかな、とも思うのですが、

・どのラストになるのかは、中盤でのリアルタイム開票(開演直前にお客さんが投票した用紙を劇中で役者が開票する)まで役者自身も分からず、それが初日のこなれなさ具合に更に拍車をかけていたのでは。
・リアルタイム開票が芝居に組み込まれていたことによる、作品の中断感。公明正大を謳いたかったのでしょうが、客はそこまで公明正大にこだわっていなかったんじゃないかな。

そもそも、マルチエンディングを再観率UPの方策と考えたのかもしれませんが(いや、パインソーさんは連続企画など色々な企画を織り込んだ公演を行うのが常なので、これも単にファンへの「お楽しみ企画」なのだろうとは思いますが)、個人的には、同じエンディングで淡々と上質な公演を重ねる事こそが、再観を誘う本道のような気が僕はしてしまうのです。
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■下ネタについて。
これはパインソーさんの十八番。イヤなら観にこなきゃいい、という考え方には僕も頷く部分はあるのです。熊谷さんの「大差はないはずだ」という小ネタが初演では大好きで、今回も千秋楽に見せてくれて嬉しかったりはしたので。

しかし、初演はもっと下ネタが抑え目で、そのパインソーらしからぬストイックさがとても新鮮でした。それは、例えば小島達子さんなど、初演時キャストによる下ネタの印象の度合いの違いもあったかも知れません。しかし今回は、どうもこの作品のストレートなテーマを照れているかのような下ネタ演出が、個人的には目についてしまいました。

「うまい棒」をくわえさせるとか、そんなシーンが今作に本当に必要だったでしょうか。観客の誰がそれを望んでいたでしょうか。
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■役者さんについて。
長期間のダイエットで再演に臨んだ赤谷さんには、主役としての並々ならぬ想いが伝わりました。熊谷さんは初演とは多少比重が違う役柄でしたが特に千秋楽が笑いもシリアスもキレキレ。この作品には絶対必要な氏次さん。ワンシーンで「持っていく」田中さんの役者力。
そして今公演では、何と言っても泉さんが圧巻。大役を自分なりの振り切れ方で僕的にはベストアクト。
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■そして、マヨネーズマン。
初演のエンディングは、OPと同じ歌で通してしかもそれが無常観を伴って聞こえるというものでしたが、今回は別歌のバラード。
愛とは、平和とは、正義とは。
世界人類を救うなんて柄じゃない。自分の大事な人を守るのが精一杯。
地球の裏側で飢えている人に手は届かないが、目の前の道ばたで鳴いている子犬を撫でてやることはできる。そんな卑近な事しかできないけど、そんな想いが繋がっていってきっと世界は愛で満ちていく。
初演からマヨネーズマンに魅かれていたのですが、きっとそんなメッセージが川尻さんの中にあるのではないかなと再演を観て感じました。
(ちょっと汲み取り過ぎですかね笑)

※演劇専用小劇場BLOCHにて初日と千秋楽を観劇
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■パインソー15thまなつのりったいきかく2017『extreme logic(s)』
2017.7.29〜8.5

『この世界にはヒーローがいる。』
地球に現れる怪人たちから地球を守る組織「地球浄化委員会」。
ここには、様々な能力を持ったヒーロ達が所属している。
しかしヒーロー業はお金にならない!彼らはバイトをし、普通の人々と同じように
日常生活を送り、たまに地球を救っているのだ。
そして、今、地球最大の危機が迫っていた。
人類がする究極の選択とは?

脚本:川尻恵太(SUGARBOY)
演出:山田マサル
キャスト:赤谷翔次郎・田中温子(NEXTAGE)・氏次啓・熊谷嶺(霊6)・倖田直機・たねだもとき(クラアク芸術堂)・五十嵐穂(北海学園大学演劇研究会)・山科連太郎(きっとろんどん)・高橋良輔 ほか

text by 九十八坊(orb)

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