〝未完成〟のループ 市電プロジェクト×指輪ホテル「Rest In Peace, Sapporo~ひかりの街をはしる星屑~」

叙情的な感想が先に上がっているので、何がどうなっていたか、冷静に振り返ってみる。

現在開催中の「札幌国際芸術祭2017」のプログラムとして、劇作家・演出家・俳優の羊屋白玉が市電を使って作り上げた舞台作品だ。誰でも参加できるという触れ込みだったが、札幌の演劇関係者が多かったように思う。

市電の中にはストーリーテラーの役割を担う男女(男は亀井健)がおり、彼らの日常会話のようなせりふを挟みながら、市電沿線にまつわる歴史が演劇となって〝乗り込んで〟来る。かつて市電沿線にもあったリンゴの木が過去を振り返り今を語る。アカシヤの木や渡り鳥なども現れる。ウサギ(のお面を付けた役者)やフクロウは、先に書いた男女とは別の次元でのストーリーテラー的な存在だと感じた。だから、彼らが出てくると札幌という街を語っていた物語の中に、さらに別の物語が生まれるような印象を受けた(これを「日常から離れた-」と表現する人もいると思う)。笑ってしまったのは、男の子供時代(と思われる)を演じたナガムツが、無銭乗車をして逃げ去る場面。雨の中、どこまで走っていくのだろうと後ろ姿を目で追ってしまった。

演じる役者たちは、一様に頭からつま先までグレーの塗料を塗っている。髪も洋服も、染めるのではなく「塗って」いた。しかしながら私が観た23日は雨。「雨で落ちる」というのは想定外だっただろう。また、市電内の窓が曇るというのも想定外の一つ。いくらタオルで拭いてもよく見えなかった場面があった。

乗り物を使った演劇は、昨年、さいたまトリエンナーレで経験済みだ。そこでは運行ダイヤが決まっていたため、どのタイミングでどんなアクションを起こせばいいかが明確で、さらに昼開催だったので語られる歴史を通り過ぎる景色に重ねることができた。市電は信号機で止まるし、交通状況に影響を受ける。だから、物語が早く終わり、役者が「次の駅まで今しばらくお待ちください」と言う場面もあった。一方でそんな時でもアドリブでつなぐ亀井の姿を見て、「やっぱり役者だなぁ」と関心した。

どうだった?と感想を聞かれたら、「未完成だ」と答えたい。分かったか分かりにくかったかだと、「分かりやすい」作品だ。ただ、長く札幌に住んでいても札幌の歴史を知らず、また市電沿いは普段の行動範囲外の地域で「この辺には-」と言われて暗い外を見ても、「どこだろう、ここ」と思ってしまった。流れ星のように窓の外を流れていくネオンなど既に存在するものを演出に取り入れるために、「夜」限定の公演だったのではないか。欲を言えば、昼公演を行って、昼と夜とではまるで景色の違う札幌の街を見せてほしかった。

最後に。羊屋が書く、いい意味で甘ったるく叙情詩的なせりふは、亀井健によく似合う、と思った。

9月23日17時、札幌市内

text by マサコさん

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