私が私であるために 東京デスロック『3人いる!』

今年7月、創造型劇場の可能性などを考えるセミナー「シアターZOOラボ」のゲストとして札幌を訪れた、「東京デスロック」主宰の多田淳之介。残念ながらセミナーはさまざまな事情でイマイチ盛り上がらなかったと聞いたが、演劇作品は「横浜まで観に行って良かった!」と心から思う内容だった。

 

「ARE YOU HAPPY???~幸せを占う3本立て~」と題し、過去の2作品とベケットの戯曲を上演。このうち、「3人いる!」は、役者は3人なのに登場人物は6人もいる。ある日、ぽんちゃんが帰宅すると部屋には見知らぬ女性がおり、「ここは自分の部屋だ」と言い張る。状況がつかめず、友人の〝じま〟に電話してじまの家に「2人」で向かう。ぽんちゃんが着く前、じまが部屋にいると見知らぬ女性が現れ、「ここは私の家」と言う。そこにぽんちゃんやじまの彼氏が現れて…というコメディーだ。

役者2人の時は「ぽんちゃんA・ぽんちゃんB」とか「ぽんちゃん・じま」とか「じまA・じまB」、役者3人の時は「ぽんちゃんA・ぽんちゃんB・じま」「ぽんちゃん・じまA・じまB」と出現している役がどんどん変わっていく。3人の役者はギアチェンジをするかのように、役をコロコロと転がす。分かりにくいのでさらに説明すると、ぽんちゃんには「私こそがぽんちゃん」という人物が見えるが、じまにはぽんちゃんは1人にしか見えない。だからぽんちゃんが、「私とこの人と、どっちが本物?」と指を差しながら尋ねても、じまには「ぽんちゃんがぽんちゃん自身のことを指さしている」としか見えない。それが3人同時に起きている。だから、今、この役者が誰を演じているのかは、せりふの内容や誰の方に体を向けているかなどで判断する。テンポの良いせりふや、もう一人の〝私〟に振り回される滑稽さに笑いながらも、すごい構造の本だなと驚いた(今、残念に思うのは脚本を買い忘れたこと)。じまの中にじまと彼氏が入ってしまって、「2人の会話」を1人でしているラストも良かった。

一方で、「私」という存在は、他人があっての「私」でしかないという事実を突きつけられた。演劇として観ている分には笑えるけれど、もし自分の身に起きたら…と起こりえないことにも考えが及ぶ。そんな所まで思考を連れて行ってくれる作品に、久々に出合った(これが、同日夜の「再生」でとんでもないことになる)。

役者3人(李そじん、原田つむぎ、松崎義邦)も魅力的。特に開場時から舞台上にいて、山岸凉子先生の「舞姫 テレプシコーラ」を髪をかき上げながら、足を椅子にのせながら、けだるく読むそじんさんがとにかくかわいらしかった。

13日、横浜・STスポットにて観劇

text by マサコさん

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