悲しいけれど暗くない、優しい作品  MAM『月ノツカイ』

炭鉱の町で暮らし始めた夫婦のこれまでとこれからの話。

時間軸の表現がところどころ独特。単純に「回想パート」と「現代パート」に分かれているシーンもあったのだけど、両方の時代を生きている役者がその場でシンクロしているのが、舞台ならではだなと思った。特に冒頭の横塚、百合子、真実の会話は「真実は既に死んでいて百合子は幽霊と話している」と一瞬思ってしまい、すぐに気付いておぉなるほど、とつい唸ったのだが、これってよくある演出方法なのだろうか。

40年前の田舎の炭鉱町、不満と一抹の期待の中で暮らす主人公。不器用で捻くれているものの、その実まっすぐで人に飢えているという健司を主演の遠藤さんが見事に演じきっていて、特に弔辞のシーンなんかは漢の決心という感じでかなりグッときてしまった。

夫婦を追ってやってきた友人三人組もそれぞれいい味を出していて、空気の読めない熱血なウザキャラ、という雰囲気の信也が「タフなんかじゃないよ。なりてぇけどな」と自分の弱さをこぼす場面など、これまた胸を打たれしまった。武男、茜も通り一遍なキャラクターではなく、劇中では描かれなかった東京時代の五人の姿も観てみたかったなぁと思うほど。

登場シーンは短いながらも、親方鉱夫・越谷役の吉田さんやあたたかさ溢れる増澤さんの存在感、全編ほぼ出ずっぱりの成田さんと本間さんも本当に見事だった。上演時間に限りがなければ鉱員三人組ももっと掘り下げて欲しかったところ。それくらい登場人物一人一人に物語があり、愛すべきキャラクターに仕上がっていた。悲しいストーリーだけど暗い印象はなく優しさがにじむ作品だったと思う。カーテンコールで夫婦の後ろでダブルピースしてる黒石さんがとてもキュートでした。
 
 
2017年11月7日(火)19時30分 シアターZOO

投稿者:取置デマチ

text by ゲスト投稿

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