小刻みに殺される労働者―江別演劇鑑賞会創立30周年記念特別例会 東京芸術座『蟹工船』

観劇前。「蟹工船って、どんな話だっけ?」「酷い労働環境に耐えられなくなってストを起こす話…かな?」と、有名な作品ではありますが内容をボンヤリとしか知らなかった私にとっては、色々と衝撃的な舞台でした。こんな話を書いたら、そりゃあ小林多喜二が御上に睨まれても仕方ないなと妙に納得でしたが。

舞台は逃げ場のない船上。弱いものから切り捨てられる理不尽で救いのない状態に何度も戦慄し、観ながら心が摩耗しました…。10年くらい前に所謂『蟹工船ブーム』というものがありましたが、それを思い出しつつ、こんなひどい環境のどこに共感するの!?と突っ込んでいましたが話が進むうち、共感したのは労働環境云々ではなく〈人を使い捨てにする社会〉なんだなと実感。病気であっても休ませない、衣食住も最悪、しかも暴力が日常茶飯事。死んだ労働者の為に棺を作ったら、木材が勿体ないから麻袋(しかも使い古し)に詰め替えろとか言われて。ここまで人権ないのかぁ…とショックでした。一番凹んだのは労働者側にとっての鬼監督も、会社の上役から見たらまた一労働者であるという事実。労働者を虐げる監督を除けるのは、「サボ(タージュ)」を起こせば良くなると信じる労働者達の必死な要求ではなく、利益を追求する権力者の意向であることに心底グッタリしました。

現代日本に蟹工船のような劣悪な職場はないとは思いますが、そこまであからさまでなくとも派遣切りやワーキングプアなど船の上と同じ様に〈使い捨てにされる労働者〉という姿に(悲しい事ですが)わが身を照らし合わせる人々がいたから支持されたんだよなぁと、思わず遠い目になってしまいました。観劇日、会場の市民会館は衆議院選挙の期日前投票で賑わっていました。終演後、次々と投票に訪れた人々の姿を思い出して、この善良な人々が納得できる形で明日の選挙が決着するといいなと、柄にもなくしみじみ感じた夜でした。

 

ちなみに余談ですが、江別えんかんは会員の年齢層が割と高めで…。上演時間約3時間の舞台に耐えられるのかな?と思っていたら(案の定、開演前のアナウンスで知らされた時はどよめいていましたが;)劇中の「俺たちの味方は俺たちだけ」というセリフで拍手が起きたり、最後の劇団からの挨拶で「カンゲキしてもらえて嬉しい」が「観劇」だと分かってはいても「感激」と変換されてしまうくらい皆さん熱心に観ていたりで、やっぱり幅広い年代に訴えかける話なんだということを目の当たりにしました。悲惨な話だけど、それだけじゃなかった『蟹工船』。

10/21(土)18:30~ 江別市民会館

text by うめ

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