戦時下のドイツを舞台に、ある研究者と家族のそれぞれの苦悩を描く。
社会科の授業が苦手だったことから、歴史物や史実をモチーフにした作品にすら苦手意識のある私。コメディチックなシーンはほぼないが、観ていて疲れるということも一切なく、重厚な会話の応酬にグイグイとストーリーに引き込まれてしまった。
国のために研究を続けることに使命感を覚える主人公。葛藤の中で少しずつ感情が壊れていく様が、妻や義妹、その婚約者との関わり方の変化で表現されていた。妻に注ぐ愛情の深さと彼女を実験台に使おうとする二面性の恐ろしさ。妻が最後に口にしかけた言葉が悲しさに拍車をかける。
ラストのヤコフとのやり取りからは、戦争が彼を変えてしまった、戦争が終わった後も彼は苦しみながら生きていた、なんて話では終わらせない、という作品に込められたのメッセージのようなものが感じられ、戦争や人種差別を美化するわけではない、と釘を刺されたような思いがした。
しかし、改めて思い出すと、義妹の婚約者を前にドギマギとするチャーミングな部分や、研究に対する躊躇など、物語では彼の人間らしい一面も随所で描かれていた。それを見ているからこそ、観客は彼の苦悩や葛藤の深さを慮り、もし戦争が起こらなければ、もし別の仕事がすぐに決まっていれば……と思いを馳せてしまう。こうした振り幅が構成や演出の上手さというか、丁寧に作品を作るということなのだろうな。予備知識がなくても楽しめるが、時代背景を調べておけば、受け取り方も変わったと思う。
2017年11月9日(木)19時30分 ターミナルプラザことにパトス
投稿者:取置デマチ
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