冬山遭難によって出会った若者たち。非常事態に助け合うために何もそれぞれの登山理由や過去を語り合わねばならないことはなかろう、とは思うのだが、若者は自分を語り、互いに耳を傾け、反発し合う。あんなにお話しするなら山小屋設定の方が落ち着いたんだけどね。外は寒い。耳が凍る。
メインストーリーは、戸澤亮氏演ずる青年が、登山中に自分のせいでけがを負った友人(熊谷嶺氏)を死なせてしまい、自分は生還。しかし、心ないネット書き込みや噂で失職するなど、「周囲の」呵責に耐えかねて、自ら死ぬために再び同じ山に登り、同じ場所で吹雪に会い、同じ場所でビバーク(待避)する。そこへ死んだ友人が出てきて励まされ、自信を取り戻す。といった友達いない男子の予定調和の再生物語。でも最初は(死んだ)友人(の霊)を見ても気がつかなかったり、結構淡々としていたので、あまり感情移入することなし。死んだ友人が、主人公には見えていて話もできる、励ましてくれる、というのは、本作品の原案者としてクレジットされている増澤ノゾム氏が演出した井上ひさしの「父と暮らせば」を思い出させる。
増澤氏の原案を生かしつつ、脚本は、山田マサル氏ら演出家や俳優陣が意見を出し合ったとのことだが、その分おもちゃ箱のように面白くもあり、また、ちょっと散漫になったとも言える。冬山遭難という古典的とも言えるドラマチックな設定と再生ストーリーに、ダンスを交えたコミカルなシーンが組み込まれる。他の3名、高学歴キャリアウーマン役、田中温子氏、インド人ホストに入れ込むおネエ役、佐藤亮太氏、貧乏からのし上がったけど女にフラれた男役、赤谷翔次郎氏、の回想シーン。これらが笑えて楽しい。俳優陣も楽しんでいるようで生き生きとして見えた。それぞれの持ち味が生かされたシーンと言える。それならそれで、楽しいコメディミュージカル風がよかったのではないか。そしてそれぞれ全員が、最後に会うべき人に会って和解して過去に決別し再出発する、少なくともその方向に向かうことが暗示される、といった終わり方がスッキリするように思う。3人の話の聞きっぱなし、置き去り、が気になった。おばちゃんは皆んなに元気になってほしいんよ!
俳優陣はいずれも安定感ある好演、適役。特に、佐藤亮太氏のあのキャラクターはすっかり定着した感がありうまい。次は敢えてサイコな犯罪者役に挑戦してはどうか。熊谷嶺氏は透明感があって、色んな役ができそうだなと今後に期待。
皆さん、おきばりやす。
2017年11月14日19:30 BLOCHにて観劇。
text by やすみん