札幌演劇から見りゃ、野田秀樹だし、キャサリン・ハンターだし、お金かかってるよね、てなもんかも知れないが、真面目に言葉、文化、演劇について考える機会になった。英語版にするということ、イギリス人と演じるということ、野田氏は「The Bee」や「赤鬼」などこれまでにもいくつかやっているから、あら、これも?程度に思うかも知れない。でもね、「表にでろいっ!」の場合は、笑いの内容が現代日本文化そのものという印象があって、「英語翻案」に、期待より不安が大きかった。結果は、「失われるものは色々あるものの、まあいいんじゃないかな」という感じ。そしてこれは、いわゆる海外作品を日本語で上演した時に、オリジナル言語からみた印象と同じなのだろう。特にシェークスピアなどの詩的文章が卓越している作品は、他言語にした場合、多くの美しいセリフがただのまわりくどい感情説明に聞こえたり、失われるものは大きい。しかしシェークスピアは、それを補って余りある普遍的なドラマがあるので、感動は伝わる。では野田秀樹のおもしろ現代劇は?
オリジナルの「表に出ろいっ!」はNoda Map番外編として、故中村勘三郎と野田秀樹のコンビに、黒木華と太田緑ロランスのダブルキャストで演じられた。ちなみに太田緑ロランスがよかった。アイドルグループ(明らかにジャニーズ系のいずれか)にハマる母親(野田秀樹)に、遊園地(明らかにディズニーランド)にハマる父親(勘三郎)、流行り物、変な宗教にハマる娘(黒木/太田)がそれぞれ出かけようとして、お産をひかえた愛犬のため誰が留守番するかという、たわいないことから凄まじい争いを繰り広げる。父親が能楽師という設定がまず日本だし、母親がアイドルに熱狂するというのも日本、カワイイもの好きで流行りに敏感なスマホ女子も日本。野田&勘三郎という息の合ったコンビ。勘三郎の愛嬌ある表情。野田氏の傑作なおばさん役。登場してきただけで笑いを誘った。
勘三郎が逝去し、もうこの役をやる人はいないのではないかと思っていた。英語版と聞いて、その手があったか、と感心したものの、この笑いがイギリス人に理解、そして表現できるのかと訝った。「英語翻案」(by ウィル・シャープ)の役目は重大だ。結果は前述の通り、「いいんじゃないかな」なのだが、これはオリジナルと比べて、という厳しい条件下なので、これでも高得点、高評価なのだ。作品をユニバーサルに世界に通用するものにする、という過程は凄まじい異文化理解だ。しかも演劇だから単なる翻訳では済まない。時代の変化に応じて変化、進化も必要だ。
作品は、「One Green Bottle」と名を変え英語上演だが、イヤホンガイドの吹き替えが、野田秀樹は野田秀樹自身、キャサリン・ハンター演じる父親役は大竹しのぶ、グリン・プリチャード演じる娘役は阿部サダヲという豪華メンバー。しかし、吹き替えというより、字幕代わりに音声でセリフを伝える目的のほぼ棒読み。オーディエンスはセリフそのものは舞台の俳優陣の声を聞き、意味だけイヤホンガイドで聞く。録音なので、全てのセリフを時間を計って吹き込んでいる。字幕を目で追うと舞台からの集中が削がれるから、という野田氏の好みだが、贅沢なメンツですなあ。大竹しのぶ自身、私じゃなくても、とボソッと言っていた。
オリジナル日本語版を札幌でなら誰に演じてほしいか、勝手に考えた。ダブルキャストやし。
野田秀樹の演じた母親役候補、櫻井保一氏、または、明逸人氏。
勘三郎が演じた父親役、長流3平氏、または、棚田満氏。
黒木華らが演じた娘役、廣瀬詩映莉氏、または、氏次啓氏。
このメンツで、きっとエエ感じや思います。
11月11日19:00 東京芸術劇場 シアターイーストにて観劇
text by やすみん