背中合わせの人生―イレブンナイン ミャゴラ 『やんなるくらい自己嫌悪』

幕が上がった時、舞台上の人物達がどういう関係なのか全く思いつかない状況が結構好きです。茶の間や学校なら関係性が想像できるけど、今回のように富士の樹海を思わせる森の入口で、スーツケースを持ったサラリーマン風の男と薄汚れたセーラー服姿の女の子の二人組とか、全然想像できなくてワクワクします。ま、すぐに二人は行き会っただけの赤の他人というのが判明するのですが;そのスーツケース男&セーラー服と、極道男コンビ、作業用繋ぎを着た二人の女。時間が前後しながら登場するこの3組はどういう関係?あのスーツケースのサラリーマンが、女たちの探すケンジさん?ピンク妊婦のお腹の子が、実はセーラー服のアキラとか?いや、もしやアキラは幽霊?? 等々、色々と穿って見てしまいました。(結論から言うと、穿ちすぎでしたが…)

 

各々の抱える背景が少しずつ明らかになる中で、コールガール(ボーイ?)に恋するアシスタントさんが「私だけを見てほしい」と叫んだ時、同じ様に恋人が風俗をやっていて絶望したスーツケース男の姿と二重写しになりました。置かれた状況は違えども、諦めて死のうとする男と、諦めずに前向きに行動する女。男が諦めずに行動していれば違う結果になったかもしれないし、女の方も相手にされなければ絶望したかもしれない。お互い、どっち側にも転ぶ可能性があった。誰の人生も他人事じゃないな、という風に見えました。些細なことで未来は変わる、変えられる。それを自ら経験していそうな(苦労人っぽい)森の住人達は、だからこそ〈死にゆく者たちの聖地〉と呼ばれている森に迷い込んだ人達を、俗世へやんわりと押し返そうとしているのかな。

 

全員の抱える問題がきれいさっぱり片付いて大団円かと思ったら、そうはならず。結局、アキラがなぜ死のうとしたかの詳細は語られなかったし、森の住人達の過去も萬屋さん以外に詳細は語られませんでした。(ハイテンションな質屋さんだけは特に過去とかなく、生まれながらに異界の住人な気がしますが)でも最初と最後に歌われていたヤギさん郵便の歌が暗示するように、この森では同じような出来事が昔から繰り返されていて、多分これから先も延々と続いていくだろうな。思い出(過去)を手放したアキラが、死にたいという気持ちも手放して少し前向きになっていった様に、最後に記憶を無くしてしまったスーツケース男も、アキラと同じように前向きに生きていければいいのですが。

でもあの暗いトーンの歌声を聞いた感じでは、希望の持てるアキラとは違う結末を迎える気がするな・・・。

 

11/9(木)19:30~ サンピアザ劇場

text by うめ

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