【特別寄稿】「持続可能な演劇」を目指して  寄稿者:戸塚直人

 
観劇人のみなさま
座・れら第13回公演『アンネの日記』にご来場いただき、まことにありがとうございました。
やまびこ座ベンチ席での150分は本当にたいへんだったと思います。にもかかわらず途中休憩時にお帰りになってしまうお客様もなく、最後までおつきあいいただきました。
おかげさまをもちまして札幌劇場祭TGR2017では、新設された「優秀賞」という栄えある賞を受賞しました。重ねて御礼申し上げます。

TGR授賞式後のパーティーでは何人かの審査員の方々と懇談いたしました。
みなさん(大賞と優秀賞は)僅差だったと仰ってくれました。
お世辞でもとてもありがたいと思いました。yhsには申し訳ないのですが。しかしながら賞は僅差でも賞金は大差、これが現実です。もちろん製作費赤字の補填に大賞賞金を期待していました。ということで製作的には大失敗。SDGsならぬ「持続可能な演劇」が今の私たちには必要です。「それでもやりたい芝居がある!」という矜持がアマチュア演劇の本質だと、矜持という名の強がり虚勢やせ我慢が私たちの支えでしたが、そろそろ限界です。

演出・鈴木喜三夫はTGR2017参加のどの演出家より高齢だったと思います。1931年生まれの鈴木は、本年86歳。60年にわたり北海道で芝居をつくり続け、北海道演劇界の先頭を走り続けてきました。北海道で演劇にかかわる私たちにとっては希望の星です。80代でも芝居をつくれるし、平均余命超えても演出できる。この「持続可能」ぶりは、演劇人のみならず超高齢社会日本の希望とも言えます。だから90歳100歳110歳と希望を更新して欲しいのです。

今回、鈴木喜三夫は新聞や雑誌で引退を表明する中で稽古が進みました。鈴木の『アンネ~』初演出は1960年、半世紀を超える仕事です。いい芝居にならないわけがないのですが、引退表明の演出家に役者スタッフが奮起し、いっそういい舞台になりました。父と娘の、母と娘の、姉と妹の、少年と少女の、大人と子供の、時代・社会に翻弄される人々の、そして21世紀になっても繰り返される分断と排除と不寛容の時代に生きる私たちの物語になりました。

だから上演後11月5日時点で「TGRが始まったばかりで申し訳ないけど大賞いただきました」と確信していました。そこに舞い降りた啓示は「TGRで大賞とって来年再演できれば、鈴木喜三夫演出で行けるわ。役者スタッフも演出プランもこのままなら、来年も喜三夫さん、稽古場に引っ張り出せるっしょ」と。鈴木喜三夫引退取り消しの道筋が明確に見えました。だからバラシのときも、舞台さんにも道具さんにも衣裳さんにも「近々またやるから捨てないで~」と懇願したのです。あ~あ。

yhs南参氏の大賞スピーチでは、「鈴木喜三夫さんには悔しがってもらってまた来年も」と言ってもらいました。ありがとうございます。私は悔しがっていますが、鈴木さんはそうでもありません。
yhsはこれまで特別賞ばかりで、20周年記念公演で大賞ということです。「座・れら」は実は来年10周年。集団的にはyhsの半分のキャリアです。実はうちもこれまで特別賞(今回は優秀賞)ばかりでして、10年後の大賞めがけて頑張ろうと思います。さしあたって来年2018年は別役実作品に取り組んで、これまでの10年の劇作を検証しようかと思っています(7月上演予定)。

いろいろと『アンネ~』再演は難しそうです。本当に多くの人に見てもらいたかった作品なのでとても残念です。お客さまからも「日本中の中学生に見てもらいたい」と言ってもらい、私たちも本気でそう思っています。再来年くらいの再演が無理でも、オリンピック的に4年後あたりを目指して何とかしようと思います。もちろんその時は「鈴木喜三夫90歳記念演出」公演です。

みなさん、こんな「座・れら」ですが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。(2017年12月13日)

座・れらのページはこちら

寄稿者:戸塚直人
座・れら 演出部
※座・れら13回公演『アンネの日記』 TGR札幌劇場祭2017 優秀賞を受賞

text by ゲスト投稿

SNSでもご購読できます。