今年のTGR新人賞は「劇団plus+(以下、プラス)」が受賞した。聞けば、演劇専用小劇場BLOCHで上演した劇団が、5年連続で新人賞を受賞しているのだとか。若手劇団を父親のように見守り、時には母親のように心を砕く同劇場の和田研一代表に話を聞いてみた。
「プラスはダークホース以下のダークホース」
今回のTGR、大半の人は、「きっとろんどん(以下、ろんどん)」が新人賞を取ると思っていたんじゃないかな。上演した『ミーアキャットピープル』は延べ470人の動員。これまでもろんどんの舞台は観ていて、「よくやってるな」と思っていたけれど、新人賞のエントリーでここまで期待度が高い劇団になっているとは予想していなかった。でも、ふたを開けたら受賞はプラス。公演期間が(大賞を受賞した)yhsとかぶっていたこともあって、上演作品『姉妹、一肌脱ぎますッ!』の動員は150人ほど。本番を観て、期待度の高さを差し引いても「ろんどんが新人賞」と思っていた。だから、プラスが新人賞だと聞いて「ダークホース以下のダークホースが取っちゃった」と正直驚きました。
「新人賞は再演のチャンスがない」
TGRは、大賞は再演のチャンス(制作費や会場無料)が与えられるけれど、新人賞は一切ない。今回、プラスを観ることができなくて「どうして新人賞なの?」と疑問に感じている人も少なくないと思うんですね。だから、代表の森田(真莉菜)さんに「すぐに再演しない?」と声を掛けました。脚本や演出直しを一切せずに、「これが新人賞の作品です」って見せようって。もやもやしている人たちの気持ちをスッキリさせるには、その方法が一番いいと思ったんです。これがもし、1年後だったら新人賞の香りはなくなっていて意味がない。応援したいという気持ちが強くて、多少、僕が赤(字)をかぶったとしてもいいかなって思ったんですよね。その再演では、きっとろんどんの作演出の井上(悠介)くんに前説をお願いする予定です。
※『姉妹、一肌脱ぎますッ!』の再演は1月22日・23日を予定
「若い人には先をもっと考えてもらいたい」
新人賞にエントリーする劇団の大半が20代。学生と社会人の間でふわふわしている人が多いですね。ただ、新人賞受賞を励みに演劇を頑張る、演劇のためにフリーターで頑張る-という考え方に、ここ何年かで怖さを感じています。
札幌には、TGRや演劇シーズンなど札幌市がお金を出している演劇イベントがあります。動員も年々増えていて、演劇ファンも増えている。一方で、出演することで名前を知ってもらって、役者や劇作家としての仕事を得ている人も多い。もちろん、劇場もその恩恵を受けています。それらを批判する気は全くないけれど、演劇に費やされる助成金が「札幌市民の趣味嗜好を作るため」と見える時がある。「市民が飽きちゃったら今のような恩恵がなくなるのでは」と考えると、若い人にはなおさら「先を見据えて」と言いたくなります。北海道で演劇だけで食べていくのはまだまだ難しいという現実があるのも一因です。
別に演劇を諦めろと言っているのではありません。北海道に居続けるなら仕事を持ち、ライフワークとして演劇を長く続けていく方が、今の演劇シーンの盛り上がり具合をキープできると思うんです。そうではなくて、チャンスをつかみたいという野望があるなら、すぐに東京に行けばいい。東京は、演劇からいろいろなチャンスが広がる可能性が札幌よりも断然大きいから。そう思うのは、その野望を実現していたり、実現しつつある川尻(恵太)くんや(村田)こけしちゃんを見ているからかもしれません。
「借りやすいと思われているんじゃないかな」
BLOCHで新人公演が多いのは、「何となく借りやすい」と思われているからじゃないですかね。90席っていう程よい大きさで、みんな新人の時にやっているからかも。そんなこんなで、札幌の演劇人に支えられてBLOCHは16年続いています。
text by マサコさん