一公演につき、4~5人の役者が一人芝居を上演する「LONLY ACTOR PROJECT」。
正月明けに行われる「松の内公演」も、演劇ファンにとっておなじみになりつつあるようだ。私にとっては、観たことのない・観た回数の少ない役者を知る機会でもある。今回、5人が上演したうち、一番気になった作品について取り上げる。
「部屋が暗い。」 出演:東千智(劇団しろちゃん)、作演出:井上悠介(きっとろんどん)
大雨に濡れながら、主人公が自宅に帰ってくる。冷蔵庫の中の切り干し大根を電子レンジで温めつつドライヤーを使うと、家の中の電気が消える。友人からの電話によると、どうやら広い範囲で停電らしい。明日までに提出しなければならない顧客リストを作ろうとパソコンを見つつ、友人とスマホで話していたら-。と、あらすじはこんな感じ。
今回の公演で唯一、セット(とはいえ、水槽とソファーらしきもの、テーブル、冷蔵庫、電子レンジ)を持ち込んだ作品。雨に濡れたせいなのか、顧客リスト制作が面倒なのか、主人公のテンション低めぶりがなかなか良い。水槽内の魚に、上司へのグチを言う。それでもこの子は、職場で明るく元気(な振り?)にやっているんだろうなぁと、背景を勝手に想像してしまう。私にとって東さんは、しろちゃんではなく高校演劇の印象が強い(演出した「教室裁判」が全道大会で最優秀。同作は翌年夏に全国大会で優秀賞)。そのため、高校時代の東さんの演技を観てみたかったと強く思った。
その東さんの演技はもとより、井上くんの脚本もなかなか面白い。中でも、せりふで日常から少しずつあり得ない方向・事態に引っ張っていく様がいいなと思った。年末年始にラーメンズの動画を観まくったせいか、「TEXT」の「50 on 5」に重なった。そう思わせておいて、中途半端に温まった切り干し大根を「表面は温かいけど中は冷たい。すごくまずい切り干し大根」(あいまいなので細かなところはご容赦を)などと、細かなネタというか、独特な言い回しを突っ込んでくる。私が「笑わせるぜ!」的なノリが苦手なのと、演劇でも映画でもディストピア作品が大好きなので、本作と波長が合っただけかもしれないが最後まで飽きなかった。久々に面白い若手に出会えた、いい買い物をしたという気分になった。
気になったのは以下の点。
・停電になった後のサスは必要ないのでは?→そもそも主人公はそんなに動かないので、内臓バッテリーで動くパソコンの明るさだけの方が、臨場感が出たような気もします
・東さんの表情が見えにくかった→前髪サイドが長め、全体がボブ、というヘアスタイルだからなのか、パソコンを見たりうつむいたりすると、髪の毛で顔が隠れていた。濡れて帰ってきて、ろくに乾かすことができなかったというのを生かして、太めのヘアーバンドでぐいっと上げても良かったような
・ラスト、もっと追い打ちをかけても→「(友人:空をいっぱい何かが飛んでいる)こっちは飛んでいないよ」(こちらも曖昧)というせりふを聞き逃したら、あの轟音は何?と思われそう。何かがミサイルか戦闘機でも何でもいいのだけど、下手の窓から一瞬、閃光が走って暗転、でもかっこよさそう(単に私の妄想です)。その時に、「あっ」という東さんの表情を見たい(同)
思いがけずいっぱい書いてしまったが、井上君の作演出で、東さんも出演する「電王」も、電王戦ファンとしては楽しみでならない。
2018年1月6日、BLOCH
text by マサコさん