≡マサコさんの部屋≡    vol.1   縁もゆかりもないからこそ 〜青年団リンク ホエイ 北海道三部作によせて〜

昨年から札幌で、北海道をテーマにした舞台を観ているからか、「北海道は演劇にしやすい土地なのかも」という思いを強くしている。そんな中、北海道出身でも在住でもない青年団所属の役者・河村竜也(広島出身)と、劇作家・演出家・役者で劇団野の上を主宰する山田百次(青森出身。以下、百次さん)による「青年団リンク ホエイ」(現在は ホエイ)が、東京のアゴラこまば劇場で、『郷愁の丘 ロマントピア』を上演した。夕張の過去と今を描く本作は、津軽藩士大量殉職事件を描いた『珈琲法要』(2013年初演、TGR2016大賞受賞)、昭和新山誕生と政府の情報統制に振り回される人々を描いた『麦とクシャミ』(2016年)に続く、北海道3部作を締めくくる作品でもある。

縁もゆかりもない2人が、なぜ北海道に行き着いたのか-。ものの資料によると、『珈琲法要』を書いたきっかけは、百次さんが「知人を通じて知り合った青森・弘前市の喫茶店オーナーから、先祖の悲劇を聞いて愕然とした」ことなのだそう。『麦とクシャミ』の時は、高野文子の漫画『どみとりーともきんす』を読み、「昭和新山の誕生にあらためて興味を持ち」、そこから「北海道3部作を完成させたい」と構想したという。今回、あらためて「なぜ北海道にこだわるのか」と百次さんに聞いてみたところ、「北海道はいろいろなところから人が移り住んだ人がいて、それぞれ小さなところで起きている・起きたことが今の日本の縮図のように見えるから」という。その言葉は、分かりやすいドラマ性に特化したような作品とは一線を画し、しかも重く響いた。

 

『麦とクシャミ』撮影:田中流

 
『郷愁の丘 ロマントピア』は、夕張市の中でも現在はシューパロ湖に沈んでいる地域、「大夕張」が主な舞台だ。時は現代、元炭鉱夫の男4人が地方紙の取材を受けるために、湖のほとりに集まる。そこには大夕張の歴史を刻んだ石碑が建ち並び、その一つを兄貴分の男が磨いている。「病院からもらう薬の量が増えた」「体の調子が良くない」-などの世間話から、内容が数十年前の思い出に飛ぶと、おもむろにニット帽を脱ぎ、ある人は車いすから降り、ある人は事故で失った左腕を復活させ、そこににぎやかで勢いのあった炭坑全盛期を出現させる。話が現在と過去を行き来するうち、炭坑で起きた爆発事故、エネルギー転換に反対するスト、炭坑の閉山、そしてマチから出て行く人の姿が語られ、そして今の夕張の姿となる。

 

『郷愁の丘 ロマントピア』撮影:田中流

 
こう書くとものすごく真面目で重い話だと思われそうだが、マチの過疎化や高齢化など、今まさに日本のどこかで起きているような出来事を、ホエイは笑いやおかしみに包んでふわっと提示する。その手法は『珈琲法要』でも『麦とクシャミ』にも、私が初めてホエイを知った『雲の脂』にも通じている。登場人物はいずれもその時代をその土地で生きた市井の人たち。せりふも展開もユーモアに包まれ、笑いを誘う。しかし、気が付けば目を背けたくなるような揺るがない事実のど真ん中を突いている。例えばこれが札幌だと、同じく土地の歴史を描くと、切ない話や悲劇では涙を誘うような展開に、ファンタジー色が強くなると事実から離れた内容になる傾向が強いように思う。その理由はよく分からないが、もしかしたらホエイは縁もゆかりもないからこそ、遠慮なく北海道に真っ向勝負を挑めているのかもしれない。

チラシとともに配布された本作の年表や夕張の地図を事前に読んでおくと、物語がより膨らむ。が、東京公演の大半の観客は東京の人だっただろう。だから、地図を見てもあの広さや不便さは想像しにくく、「救急車を呼んでもしばらく来ないよ」というせりふは、ピンと来なかったのではないか。

 

『郷愁の丘 ロマントピア』撮影:田中流

 
TGR大賞受賞の副賞の一つが「札幌演劇シーズンへの参加」ということもあって、ホエイは27日からシアターZOOで『珈琲法要』を上演する。百次さんは「一昨年、札幌でやった『珈琲法要』再び札幌で上演します。今度は凍てつく寒さの真冬、1月末からの公演、臨場感あふれる芝居になります。どうぞよろしくお願いします!」と意気込み、公演を楽しみにしているそうだ。今回の札幌公演を縁として、北海道で北海道3部作を上演してくれないかなぁと期待している。

 

『珈琲法要』撮影:田中流

 
・『郷愁の丘 ロマントピア』は1月11~21日まで、東京・こまばアゴラ劇場で上演
・『珈琲法要』は1月27日~2月1日まで、札幌・シアターZOOで上演

〈青年団リンク ホエイ〉
2013年、青年団若手自主企画 河村企画として発足し、同年『珈琲法要』を上演。『郷愁の丘 ロマントピア』で「青年団リンク」を卒業し、札幌演劇シーズン-2018冬から独立カンパニーとして公演を行う。メンバーは河村、山田のほか、制作で役者もやっている赤刎千久子(ちくこさん。佇まいがかわいらしい)がいる。以下、ホームページより抜粋。
ホエイとは、ヨーグルトの上澄みやチーズをつくる時に牛乳から分離される乳清のことです。産業廃棄物として日々大量に捨てられています。でもほんとは飲めます。うすい乳の味がしてちょっと酸っぱい。 乳清のような、何かを生み出すときに捨てられてしまったもの、のようなものをつくっていきたいと思っています。

劇団のホームページはこちら

text by マサコさん

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。