新しい札幌の古典 弦巻楽団『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』

堂々たる舞台だ。ちゃんと笑えて、いい気持ちにさせて、客を満足させて家路につかせる。観ただけで人生が少し豊かになる、そんな舞台が札幌にあることがうれしい。

札幌演劇シーズンのレパートリー作品として再演される本作は、今回なんと5度目の公演。これだけでもう面白いに決まってる。

もし「札幌演劇シナリオ傑作選」なるものが出版されたら、まっさきに載せられるべき作品、それが『ユー・キャント・ハリー・ラブ!』だ。

2005年の初演と2016年の演劇シーズン公演も観ているのだけど、観れば観るほどこの作品の良さは増す。そういった意味では、以前観た人にこそもう一度観てもらいたい作品だ。

特に今回は主役が代わった。これまでこの作品を支え、2016年の演劇シーズンに主演男優賞があれば受賞間違いなしだったであろう松本直人に代わり、東京から青年団の永井秀樹を招いた。

大丈夫なのか? 僕たちは松本直人を観に来てたんだぞ、という懸念はまったくの杞憂だ。これまでの初老・奥坂教授から、生き生きとした若さも感じる中年奥坂になり舞台は躍動感が増した。

なにより面白いことに、新しい配役を観ることで過去の舞台までも輝いてくる。かつて観た松本バージョンの『ユー・キャント〜』を思いだし、現在と比較し両者を楽しみあうのだ。

再演の良さが、まさにこれだ。同じ脚本を違う演出や異なる配役で観ることで多面的な視点から眺められ、立体的に楽しめる。

作・演出の弦巻啓太がパンフレットに書いているように、僕も様々な演出家や役者のバージョンを観てみたい。シェークスピアの脚本が古今東西、いろんな人の手によって解釈や実験を積み重ねられてきたように、この脚本も新しい試みや大胆なチャレンジに耐えうるはずだ。

落語や歌舞伎など日本の古典も演者が変わることによって作品本体の滋味を味わう。札幌オリジナルの作品でそういう古典が現在進行形で生まれ育っているのを体験できる、それが札幌演劇シーズンなんだなと、そろそろようやく、僕は気づいた。

 

公演場所:札幌市教育文化会館 小ホール

公演期間:2018年2月7日~2月12日

初出:札幌演劇シーズン2018冬「ゲキカン!」

 

text by 島崎町

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