札幌の演劇を真剣に観始めたのはここ4年くらいのことだが、上演作品をざっと思い出すとオリジナル脚本が圧倒的に多い。それぞれが面白かったかどうかは別として、「書く」気持ちの強い演劇人が多いのはうれしいことだ。一方、14日から公演が始まる札幌座の『暴雪圏』を含め、イレブンナインプレゼンツdEBoo#1『12人の怒れる男』、劇団アトリエ(現・クラアク芸術堂)『半神』など既成の脚本や演劇以外の作品をモチーフにした舞台もある。オリジナルに比べると数は少ないが、既に演劇以外の形で世に出ていたり、他の演出がが手かげていたりする作品を、「札幌の作品」として観る時には、「今、どんな風に見せてくれるのだろう」と期待が膨らむ。
昨年、劇作家で演出家の藤田貴大(伊達出身)が率いる演劇集団「マームとジプシー」が、結成10周年を記念した全国ツアーの一環で初の札幌公演を行った。数年前の藤田への取材では「伊達に住んでいた身からすると、どうも札幌(公演)はね…」などと口を濁していた(実際は、公演の規模と公演のタイミングがうまくかみ合わなかった、という)。が、札幌国際芸術祭の公式プログラム「さっぽろコレクティブオーケストラ」での演出も相まって、初の札幌公演は、マームとジプシーを待ちわびていた演劇ファンでにぎわった。そして今月、10周年記念の第2弾として、作家・川上未映子の詩をモチーフにした一人芝居「みえるわ」で、再び札幌を訪れる。
昨年、上演した4作品は全てオリジナルだったが、藤田は『COCOON』(今日マチ子作。2013年初演、15年再演)、『小指の思い出』(野田秀樹作。14年)、『書を捨てよ町へ出よう』(寺山修司作。15年)、『ロミオとジュリエット』(シェイクスピア作。16年)-と、原作ありきの作品や、既成脚本の演出も手がけている。このうち、私は『ロミオとジュリエット』以外を観ているが、いずれも原作や元の脚本の筋を追いながらも、焦点は別のところに置かれたような印象を受けた。
例えば、沖縄のひめゆり学徒隊をモチーフにした『COCOON』では、少女たちが戦争に翻弄される姿のほかに、現代の女子にも通じる学校でのたわいないおしゃべりや、じゃれあって笑い合う日常を存在させた。『書を捨てよ町へ出よう』で、映像やドラムの生演奏を挟み、ファッションショーなどをパッチワークのように繋ぎ合わせた演出は、先が見えずに不安にかられ、鬱屈や絶望を抱き、時にか弱い若者の姿を、角度を変えて見せているようだった。その原作はどうか。今日マチ子のマンガでは戦時下で惑う少女たちの姿が圧倒的に多く、日常の場面は少ない。寺山修司の映画は若者の荒々しさのインパクトやあの時代ならではの卑猥さが強く、当たり前だがミナペルホネンのファッションショーなんて出て来ない。そう考えると、藤田は原作では表現されていない「コマの間」や「行間」、「空白」の部分を膨らませ、さらにそこから現代を、今この作品を演出する意味を観客に提示しているようにも見て取れる。
さて、今回の一人芝居で取り上げるのは、作家・川上未映子の詩である。藤田は14年にも川上と共作しており(『まえのひ』)、再びの共作では新たな詩が追加されているという。そういえば川上の詩も、言葉や文字の並びもそうだが、行間や文字間から情感などが立ちこめてくるような印象がある。その言葉の数々を、女優の青柳いづみがどう体現するのか楽しみだ。
また、演劇はよく分からないけど-という人には、青柳が作品ごとに身に付ける衣装に注目すると面白いかもしれない。北海道出身のロックバンド「サカナクション」やアイドルグループ「AKB48」などの衣装を手がけた森永邦彦による「ANREALAGE」、これまでもマームとジプシーの衣装を担当している「suzuki takayuki」など、へええ、こんなデザイナーが衣装を!とワクワクするはずだ。
公演に先立ち、14日19時から藤田と青柳によるトークショーが北海道文化財団(中央区大通西5の11 大五ビル3階)で開かれる(先着30人限定。1000円)。本公演の構想を聞きたい人、おっしゃれーな藤田さんを間近で見たい人はぜひどうぞ。
MUM&GPCY 10th anniversary tour vol.2 みえるわ
テキスト・川上未映子 演出・藤田貴大 出演・青柳いづみ
2月15、16日、札幌PROVO
※両日とも前売りは完売したが、当日券販売を予定
●北海道文化財団Art Café
対談:藤田貴大×青柳いづみ 聞き手:橋本倫史
申し込みは、メールまたは電話で。
・メール murayama-w@haf.jp
※タイトルを「アートカフェ申し込み」とし、本文に氏名と電話番号を記入
・電話 011・272・0501(受付時間 平日9時~17時30分)
→マームとジプシー、藤田貴大の詳細はhttp://mum-gypsy.com/about
text by マサコさん