シェイクスピアを専門にする大学教授、奥坂雄三郎(永井秀樹)。
「恋愛は幻想に過ぎない」との持論を持つ奥坂教授は、シェイクスピアの作品のうちロミオとジュリエットなど恋愛を扱った作品をひたすらこき下ろし、講義でも扱ったことすらなかった。これはいまだかつて恋愛をしたことがない、恋愛感情を持ったことがない奥坂教授の個人的経験からの持論でもあった。
ある日、奥坂教授は研究室の研究生、堺鶴男(遠藤洋平)が持ち込んだラジカセから流れてきたコミュニティFM「ラジオヘルツ」の気象予報士・DJの冬樹里絵(岩杉夏)の声に突然恋をして、感情の高ぶりを抑えることができなくなってしまう。
そんな中、雑誌『セロリ通信』の編集長である沓掛あかね(小林なるみ)が奥坂のインタビューに来る。研究室にいる奥坂の姪にして助手である鹿鳴のり子(柴田知佳)が勧める取材だが気乗りしない奥坂教授。しかし、気象予報士・冬樹里絵が同行していて一気に舞い上がる奥坂教授。
指導教授の変節に翻弄される研究生、どうしてもうまくインタビューができない雑誌編集長、自身の結婚に失敗した冬樹里絵を巻き込み、奥坂教授の恋の物語がクライマックスを迎える。
チラシを読めば過去4回上演しているとのことなので、今回は5回目の再演である。
そして一言でいって、「札幌でこれほどのお芝居が観られるのか」というほど素敵な作品だった。振り返ってみれば、弦巻楽団のお芝居は『死にたいヤツら』『果実』などを観てきた。いずれもいい作品だったが、本作品は最高の一作といってもいい。5回目の再演がそれを裏付けている。
奥坂教授を演じた永井秀樹さんは青年団(東京)所属の役者さん。恋愛に苦悩し自分が翻弄される大学教授を見事に演じきっていた。そして気象予報士・DJ役の岩杉夏さん、思わず恋をしたくなるような声だった。遠藤洋平さん、柴田知佳さんは弦巻楽団ではお馴染みの役者さん、小林なるみさんも独特の雰囲気を醸し出していた。
出色はお芝居に無駄がないことだった。
いたずらに時間を延ばす演出ではなく、必要なことを必要なだけ演じる。弦巻啓太氏の演出のうまさだ。冬樹の気象予報はまったく当たらないのだが、それと奥坂教授の心の動きがシンクロした気象の演出は面白かった。また個人的にはシェイクスピア作品はほぼ読んでいないが、お芝居では10作品以上採り上げられ解釈が加えられていた。この解釈は弦巻氏自身の解釈であろうが、『ずいぶん読んでいるんだろうなぁ』と感じた。
とはいえ、少し気になったことがある。
声に恋した奥坂教授は番組にせっせとお便りを送る(速達でというのが笑わせる)。その中に、月はいつも地球に同じ面を向けているのはなぜかという話が出てくる。これをDJの冬樹里絵が番組で読み上げる。この話がお芝居の最終盤で奥坂教授と冬樹の会話の中でも出てくる。奥坂教授が「この話を知っているか」と訊ねたとき、冬樹は「いいえ」と即答するのだが、番組で一度紹介しているのだから、当然、知っているハズなんだけどなあ。
それにしても、である。
大学教授って、描きやすいキャラクターなんだなあと思う。持論が明確なだけにそこからずれるとかくも脆い。ここがこの作品のキモである。そういえば『死にたいヤツら』でも近松門左衛門研究の大学教授が出ていた。いじりやすいキャラクターであることは間違いない。(笑)
舞台装置もそうだし、使われた音楽もそうだし、オチもそうだが、ミュージカルを観ているような錯覚にとらわれた。決して歌って踊るお芝居ではないがお芝居のすべてがミュージカル的雰囲気を持っていた。
上演時間:1時間35分。
2月10日14時 教育文化会館小ホール
投稿者:熊喰人
text by 熊喰人(ゲスト投稿)