笑いだけが人生だ コンカリーニョプロデュース『ちゃっかり八兵衛』

『ちゃっかり八兵衛』は1995年、劇団M.O.P.の舞台として公演された。作・演出はマキノノゾミ。その脚本が2001年、旧コンカリーニョで紅千鶴(斉藤ちず)の演出で公演され好評を博し、翌年すぐに再演された。

僕は2002年の再演版を観ている。当時生意気盛りだった20代前半の僕が観ても「わっ、面白い」と圧倒されたことを覚えている。

手練れの役者たちが繰りひろげる、軽妙で大胆でサービス満点の舞台。江戸文化と多国籍文化が融合したような雰囲気は現代版の見世物小屋、まさに庶民の娯楽といった感じだった。

大げさに言うなら札幌演劇界の伝説だったこの作品が、2016年、TGR札幌劇場祭で復活した。演出は南参(yhs)。2002年の『ちゃっかり~』では大石内蔵助の息子・主税(ちから)を演じていたが、十数年のときをへて演出となった。

それから1年2ヶ月後。演劇シーズンで早くも再演である。旧コンカリ版のような多国籍チャンプルー感はないが、江戸の世界に客を導き、しっかり笑いをとってカッチリ終わる正当派なコメディーとして良作だ。

若かりし僕にはわからなかったが、この再演を観て、ちりばめられた落語の要素に気づく。「居残り佐平次」「品川心中」「たいこ腹」「小言幸兵衛」「明烏」「三方一両損」などなど。

また『ちゃっかり~』は「居残り佐平次」を下敷きにしていると説明されているが、日活映画『幕末太陽傳』を改変した作品と言った方がいいだろう。

幕末、品川遊郭で金が払えず居残りをつづける佐平次は持ち前の器用さでつぎつぎにトラブルを解決していく。しかし同じ郭には異人館焼き討ちを計画する高杉晋作ら一派がいて……という内容。

時代を元禄に、高杉晋作を大石内蔵助に変え、いっそうにぎやかにしたのが本作だ。

『幕末太陽傳』は監督と脚本を兼ねている川島雄三がALS(筋萎縮性側索硬化症)であり、病気や死が影のように忍び寄る。川島の好きな言葉は于武陵の詩(の井伏鱒二訳)「『サヨナラ』ダケガ人生ダ」だった。

しかしそれを下敷きにした『ちゃっかり~』は、主人公がときどき咳き込み、死の匂いもあるにはあるが、こいつは絶対死なないな感がある。暗い憂いを笑いでもってあっけらかんと振りはらう。まるで「笑イダケガ人生ダ」とでも言うように。

笑いを生む役者たちも良かった。小林エレキ(yhs)は堂々たる主役っぷり。着物姿に色気がある。

榮田佳子(劇団千年王國)は悲しみを秘めながら笑い飛ばそうとする演技が絶品だ。

棚田満(劇団怪獣無法地帯)、 長流3平(3ペェ団札幌)の芸達者ぶりがこの舞台を支えた。舞台で遊ぶとはこういうことなんだな。もっとやってくれと思った。

大石主税を演じた、さとうみきと(座・れら)はフレッシュで、一本気な若者をうまく演じた(増田駿亮[ゆりいか演劇塾]とのダブルキャスト)。

前田透(劇団・木製ボイジャー14号)は断片的にしか出てこない難しい5役をこなし存在感があった。

深浦佑太(プラズマダイバーズ)は一番の好演。6役を演じどれもハズレなし。爬虫類的なクセのある演技で笑いを巻き起こしていた。

本作は2時間があっという間に感じられる笑いのエンターテイメント。回を重ねるごとに煮詰まって濃くなっていくだろう。多くの人に楽しんでもらいたい。

 

公演場所:コンカリーニョ

公演期間:2018年2月13日~2月22日

初出:札幌演劇シーズン2018冬「ゲキカン!」

text by 島崎町

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