十勝地方の町、志茂別は爆弾低気圧の影響で猛烈な風雪の中にあった。
そこに、帯広で暴力団組長宅に押し入った強盗殺人事件が発生。二人組の強盗は二手に分かれて逃走するが、猛吹雪に阻まれて結果的に志茂別方面に逃げることになった。ピストルを持っている強盗の一人は、自動車が雪にはまり、とあるペンションに辿り着く。
他方で、家庭環境に問題があり、家出した高校を卒業したばかりの少女は、帯広の病院に入院している母を見舞うためバスを待つが交通機関がストップしているため、ちょうど帯広に向かおうとしたトラック運転手の誘いでトラックに同乗する。このトラックも雪の中で立ち往生し二人はペンションに入る。また不倫関係を清算したい主婦は、いやいやながら呼び出しを受けて密会の場所に赴く。そこもまた同じペンションだった(ペンションに入った順番からいえば、不倫関係の二人が一番早くペンションに入った)。
加えて、志茂別にある小さな会社に勤める会社員西田は、帯広空港が雪で閉鎖され社長が東京から帰れないことを知り、金庫の中にあった2,000万円を持ち逃げする。逃げる途中で、雪の中で横転した自動車を見付け(強盗の片割れの自動車)、車体の下敷きになった男を助けるため救援を求めようとしてペンションに行く。ペンションにはオーナーを含め男5人、女2人が閉じ込められる。
一方、2年ほど前まで札幌で刑事をしていて、異動で志茂別に単身赴任してきた巡査部長の川久保は、交通手段が遮断された中、電話で帯広での強盗殺人事件を知り、町内各所で救援を求める情報を入手し、西田の電話でペンションに強盗犯がいることを知っても暴風雪で駐在所から出られない。
そして朝、暴風雪が弱まり、町内で最初に除雪が行われた道路を使って逃走しようとする強盗。そこに川久保が立ち塞がりクライマックスを迎える。
このお芝居の原作は佐々木譲の『暴雪圏』。残念ながら原作を読んでないが、そもそもは北海道の道東地方を舞台にした警察官の物語だという。これを斎藤氏は、単に警察官の視線からではなく、さまざまに事情を抱えた人びとの視線からも捉え直してストーリーを展開していた。
何よりもまず、このお芝居は北海道でなければ実感できない描写が多い。ホワイトアウトで雪の中に閉じ込められる、あるいは暴風雪の中で自動車を運転することの怖さを実にうまく表現していた。そしてまた、お芝居の途中でこれでもかこれでもかと続く風雪の演出は、あたかも我々もその場に居合わせているかのような演出効果を生み出していた。北海道に住んで暴風雪を経験しているから実感できる演出。うまい。実にうまい。
そしてまた、場面転換の多さにもかかわらずその転換の見事さは、さすがの一言である。場面転換が多いと、どうしてもだらけてしまい、こちらの気持ちも萎えてしまうが、このお芝居ではそんなことは一度もなかった。ストーリーとしては火曜サスペンス劇場やうだつの上がらない警官が主人公のテレビシリーズを思わせるものであったが、演劇でなければできない場面転換だったように思う。転換の場面で流れる音楽も金管楽器を使っていて斎藤氏らしさが出ていたように思う。
登場人物は11人。会社員西田役に斎藤歩、不倫している主婦明美役に林千賀子、巡査部長の川久保役に山野久治(風の色)、ピストルを持ってペンションに入る強盗犯に山田百次(ホエイ・劇団野の上)、雪の中で車体にはさまれて動けなくなるもう一人の強盗に納谷真大(イレブンナイン)。そして三姉妹を演じた磯貝圭子。その他に山本菜穂・熊木志保・菊池健・町田誠也(words of hearts)・有田哲(クラアク芸術堂)が出演していた(すいません、全員の役どころと名前が一致しなくて)。
何といっても、ずいぶん前に見たお芝居以来すっかりファンになった山野さんは、今日もいい味を出していて魅せられてしまった。他の出演者もそれぞれに個性的でしっかりした演技をしていたし、脚本もテンポもよく、あっという間の100分間だった。
ただ物足りなさがなかったわけではない。
そのひとつは、車体にはさまれた強盗は、結局、その後どうなったのかが描かれていなかった。雪の中で絶命したのだろうと想像できるが、この人物を演じていたのが、もう一人の好きな俳優の納谷さんだっただけに物足りなさが残った。
また、クライマックスは巡査部長川久保の一人芝居で、とてもかっこよく大団円を迎える。しかし、他の登場人物の「説明」に比べて、川久保の生きざまの「説明」が少なかった。あの悲哀はどこから生まれてきたのか、定年一年前に札幌の刑事から地方の巡査部長になったことが、道警の不祥事に起因する人事異動だけでは納得できない。川久保の生きざまを川久保の一人語りで教えて欲しかった。
まあ、この2点は観客の想像にお任せするという脚本家の意図があったのかもしれないし、加えてお気に入りの納谷さん、山野さんが演じていたから余計にそんなことを思ったのかもしれない。
14日から始まったこのお芝居は、21日まで11回の公演が組まれている。すでに全公演前売券は完売したという(毎回、当日券は何枚か用意されている)。
全公演前売券が完売したということは前評判が高いお芝居ということであり、観ることができて良かったと思う。
そうそう、今日もおみやげにトモエのお醤油をいただいた。しかも観客全員に。(笑)
上演時間:1時間43分。
2月15日19時 シアターZOO
投稿者:熊喰人
text by 熊喰人(ゲスト投稿)