雪に暴かれるもの、覆われるもの:札幌座『暴雪圏』

テキパキとパズルにピースをはめ込んでゆくようなスピード感ある展開。幕間の転換の早さもポイントだ。

暴風雪の中、様々な人間模様が浮かび上がる。闇と光。白と黒。闇が、人の欲望、孤独、憎しみ、殺意なら、光は、人助けの倫理観や優しさ、正義感、そして厳寒の十勝を知る北海道人の知恵かも知れない。吹雪がそれぞれの隠し持つ人間性を呼び覚ます。吹きすさぶ雪に闇は暴かれ、また覆われていく。 原作を読んでないのに、スリリングないい小説なんだろとよくわかる?

定評ある俳優陣は皆、落ち着いた演技で好演。非常に安心感があった。もっとエグ味があったり欲望ギラギラだったりしてもよいようにも思うが、なんせブリザードなんで劇場全体が冷んやりした緊張感で包まれている。抑制された雰囲気の中、磯貝圭子氏演じる三つ子姉妹が笑いで場を和らげる。熊木志保氏、菊池 健氏の若者ペアもフレッシュだった。

斎藤歩氏演じる西田が犯罪者へと堕ちてゆく様と成り行きがおもしろい。「太く短く生きろ」という、序盤で納谷真大氏と山田百次氏演じる強盗犯たちの間で交わされる言葉が、「普通の」人間、西田の中にも降臨したか。

実際に彼が癌だったのか確信は持てなかったが、余命にかかわらず、魔が刺すことは考えられる。自暴自棄の犯罪者と良き社会人、その間を突き進む彼は、あのあとどうなるのだろう。斎藤氏は男前やなあと思いながら会社へと引き返す西田を見送った。もっとほかにも超凶悪な犯罪者役の斎藤氏を見てみたい。

プロダクションありきで集められたと思われる適役の男優陣の中でも、特にはまり役だな~と思ったのは、ペンションオーナー役の町田誠也氏。突然の吹雪と強盗殺人犯事件に巻き込まれて、最初はオロオロしつつも、しっかりとペンション内での出来事に立ち向かう。でしゃばり過ぎず、できることをして嵐の過ぎ去るのを待つ。好ましい道民?を淡々とリアルに演じていた。

十勝の道路事情や地理はよくわからなくても、こうした登場人物に「北海道らしさ」が垣間見えるのは、道外出身のよそ者ゆえかも知れない。 筆者の感じる「らしさ」をざくっと言い表すなら、「他人事に深入りしない、従順にみえて屈しない、細かいことは気にしない」みたいなイメージだ。悪しからず。

この作品、炭鉱や開拓といった従来の北海道テーマに加えて新しくスタイリッシュな上、多言語字幕付き。大いに観光資源として地域振興を意識したものだ。字幕で観劇した外国人の感想を聞いてみたい。
2018年2月19日19:00 シアターZOOにて観劇

text by やすみん

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