旅立ちの日に イレブンナイン『はじまりは、おわりで、はじまり』

厚別東中学校3年生、野田いろは(宮田桃伽)は卒業式で親に向けた感謝の作文を読むことになった。しかし、いろはとその父、野田哲(のだてつ:納谷真大)との間には血のつながりがない。いろはの母(澤田未来)はいろはが小学1年生のときに野田哲と子連れで再婚した。しかし結婚して1年後に急死してしまう。それ以来、売れない作家の「父」といろはは何かとぶつかり合って二人暮らしを続けてきた。そんな関係の中で感謝の作文など書けるはずもない。
いろはの父は売れない作家ゆえにアパートの家賃を半年も滞納。そのため大家さんには近づきたくない。しかし大家さん宅には、りょう(後藤七瀬)とはじめ(大作開)という姉弟がいて、いろはとはじめは同級生。しかも大学生のりょうはいろはの相談相手。
いろはは、感謝の作文についてりょうやはじめに相談したり、母親の姉妹であるあずきおばさん(小野洋子)にも相談する。父親を卒業式に来て欲しくないという思ういろはは、父親の友人のスマイル松本(菊地颯平)に式当日にどこかに連れていって欲しいとお願いしたりする。
卒業式(3月15日)の前日、リハーサルの日を卒業式と間違って体育館に乱入した父。いろはに向かって感謝の言葉などいらないとわめく。しかも「感謝を言葉で表すのは難しい」ともいう。しかし、父は最後にいう、「感謝されるようなことはしていない。ずっと見守ってきただけだし。そしてこれからも見守るだけなのだから。」
いろはは、卒業式当日、作文ではなく一枚の絵を配り、その絵の意味を語り始める。

実際には厚別東中学校は存在しない。しかしなぜ厚別なのかといえば、イレブン・ナインは2年前から厚別南中学校生を相手に演劇鑑賞のお手伝いをしてきたという。そしてその中学校の先生から「卒業する3年生に向けて演劇を作って欲しい」と依頼されできあがった作品がこの作品だった。
このお芝居は授業時間の制約から60分で仕上げ、すでに厚別南中学校3年生に観劇してもらったという。しかしそれだけではもったいないので、今後さらに手を加えていこうと考えexperimental(実験的)と銘打って一般公開したそうだ。

アフタートークで、納谷さんは出来のいい生徒、出来の悪い生徒、さまざまであり、そのいずれにも響くような人物設定を考えたという。そして中学3年生を含めすべての人びとが「世界の一部を構成している」というメッセージを込めたという。
野田哲が卒業式の前日にわめき散らす場面では、その荒々しさとは裏腹に、「ずっと見守ってきただけだし。」というセリフで会場内からすすり泣く声が聞こえてきた。小生も思わず目頭が熱くなってしまった。

「はじめ」「おわり」がテーマなので、名前にいろは、はじめ、りょう(了)を使ったという隠しアイテムもグッドだった。また、入場時に配られた印刷された絵。最後のいろはの絵の説明の場面でそれを見るように仕向ける演出も実験的で面白かった。

それにしても宮田さん、『サクラダ・ファミリー』のときもいい味出していたが、今回も主役として見事に中学3年生を演じていた。『サクラダ・ファミリー』のときに『年齢はいくつぐらいなんだろう』と思ったが、アフタートークで謎が解けた(苦笑)。今後、いい役者さんになると思う。

多くの中学生に観て欲しい内容だったし、もちろん、大人にも観て欲しい内容だった。今回の実験に基づいて、さらにいい作品になって戻ってくることを期待したいし、きっとそうなるだろうと実感できる
お芝居だった。

上演時間:62分
 
 
3月10日14時 サンピアザ劇場

投稿者:熊喰人

text by ゲスト投稿

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