誰が本当の主役だったのか シドビヘ『落とす男』

井上悠介(きっとろんどん。以下、井上くん)について書くのは3度目だ…と思っていたら、2月の『電王』の感想をアップするのを忘れていたことに気付いた(後ほど・後日アップします)。さて、『落とす男』を一緒に観た瞑想子さんと、本作と井上くんについていろいろ話し、メールを送り合っていたのだが、「センスはあるのだろうけど、書きたいものの核が見えない」などという意見で一致した。後ほど・後日アップする『電王』もそうだったが、舞台を一つの物語として捉えたときに誰を追えばいいのか惑ったのである。

ある男が餓死した状態で発見され、その葬式で友人3人が再会する。ある男は「軍手を落とすアルバイト」を持ちかけられる。別の男は、「(宗教の)教祖になりたい」と言う学生時代の先輩(女)についていく。別々の話と思われたバイトと宗教が深く関係していることが明らかになり、そこに関わったことで追い込まれていく人たちの姿と顚末を描く-。ざっと書くとこんな感じ。

観劇から2日経って思ったのは、私的には、塚本奈緒美演じる広瀬が主役だったら面白かっただろうな、ということ。「ノリで宗教作っちゃって、楽しくやっているうちに規模が大きくなっちゃって、私の知らないうちに、よかれと思って動いていた人たちのせいで大変なことになってたよ( p_q)エ-ン」というゆるふわ女子に振り回されちゃった男子たち、みたいな。そこを、熊谷嶺と櫻井保一の演技力で肉付けしていったら、本作で散見された「現実とかけ離れた上、適当とも思われそうな設定や表現」にも目をつぶれたかな…と。

井上くんの物語を転がしていく・展開させていくスピード感、せりふのチョイスやクスリと笑わせるセンスは、札幌の演劇の若手の中では群を抜く存在だろう。そこに観客はひかれ、動員数も伸びているんだと思う。だけど、「観客に何を残したいか」という思い(作品の狙い?)は、本作と『電王』を観ても私には伝わってこない。昨年のTGRについて、BLOCHの和田さんも「きっとろんどんが新人賞を取ると思っていた」と話していたが、審査員が「劇団plus+」を選んだ理由が今ならなんとなく分かる。

話を本作に戻すと、BLOCHの狭い舞台を上と下と分けて展開するのはいいなと思った。でも、最初の木山正大の「TRUE LOVE」、あれはフルコーラス必要なのかしら?上手くもなく、何か笑わせようとするだけ(しかも面白くはない)の歌はただただ苦痛なだけなんだけどなぁ。

 

6月1日、札幌・BLOCH

text by マサコさん

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