観終わった時、身体が強ばってガチガチになっていた。
雨の音と不穏なベース音が耳をついて離れない。
死んだ弟、兄はさえない、気がいいだけの男。遺された弟の嫁。
艶っぽい弟の嫁に、兄は……
歳をとると、わかることがある。
勧善懲悪的なわかりやすい恋愛なんてないということ。王子様とお姫様が出会って幸せになりました、めでたしめでたしなんて、ごくごく一部のこと。あるいは勘違いだということ。
恋に入り口はあっても出口なんてものは、そもそもないということ。または、無理やりに自分で決めるしかないということ。
でも、さらにそんな簡単なものでもなかった。冒頭で、思いこまされた構図が、どんどん崩れていく。最小限の登場人物で、デジャ・ヴのように繰り出される場面に絡めとられ、舞台の上の時間軸がぶれる。正しいものをそこに探そうとしても、どれが正しいものなのかがわからなくなる。
背景の縦格子は、牢獄であることだけはわかった。心を閉じこめる牢獄。
何が真実で、何が愛なのか。
人を恋うる気持ちは純度を増すほどに狂気となるのか。
一人の女を間に、狂っていく弟と兄の物語だった。
きっともっと若い時に観たら、ただの怖いフィクションと感じたと思う。物語の世界だからと少し怖がって忘れてしまえたかもしれない。
すっかり中年になって観てしまった今、心の奥底にこびりついたざらりとした感触はずっと残ったままになりそうだ。
2018年6月8日(金)19:30回 於コンカリーニョ
投稿者:わたなべひろみ(ひよひよ)
text by わたなべひろみ(ひよひよ)