ガイドブックが欲しくなる 劇団怪獣無法地帯『月見草珈琲店~まてば甘露の日和あり~』

大正も終わり間近。
関東大震災で家族を失った者の悲しみが残っている。
震災時の情報混乱が一つの契機となり実現したラジオ放送。
ひょんなことから喫茶店におかれることになったラジオ。
そのラジオから流れる曲が新しい恋の成就の一助となる・・・・・。

不親切な演劇だと思う。ちょっと強引にあらすじを書いたけれど観劇した人が読んだら「そんな話じゃないだろ」と思われるかもしれない。しかし調べてみると震災とラジオ放送は切り離すことができないように思える。物語の背景を自分勝手に解釈してみたが、そうでなければラジオを道具として用いた理由が私には思いつかない。蓄音機でよかったはずだ。

架空のムフタン王国、皇子が月と太陽を表す双子だったというエピソードもそう。甘露に「天地陰陽の気が調和すると天から降る甘い液体」という意味があることを知らないと、このエピソードに何の意味があるのか全く分からない。

と、いうように不親切極まりないのだが意味が分かってくると(もちろん分からないことは他にもあるけれど)面白い。格段に話が面白くなってくる。二回三回と観て、個々の設定、人間関係が分かってくると会話そのものが心地よい。だが心地よいといっても基本、悲劇なのだ。
自分が幼いとき父親は病気で死んだと思っていたヒロイン。亡くなってしまったが自分を可愛がってくれた小母さんの旦那が実は父親だと知る。その父親は震災で弟家族を失い忘れ形見の甥っ子を引き取った。そして甥っ子は明るくも家族を失った悲しみを抱えている。

それが喜劇になるのは登場人物たちに心の温かさがあるからだ。誰を憎むこともなく、世の不条理を恨むこともない。とびっきりの金持ちに対しても嫉妬することがない。それだからこそ心地よいのだ。

「そんなことより幸せになろう」
ツイートによると伊藤樹氏は小田和正氏の曲を聴きながら台本を書いたという。
確かにこの物語を簡潔に表すならこの曲名そのものだ。異論は、無い。

本作は2014年に上演された「月見草珈琲店〜カフェ イブニング・プリムローズ~」の前日譚。舞台を平成?(私は前作を観ていない)から大正に移し、初代店主とその妻の出会いを描いた物語。実は「月見シリーズ」作品は前作以外にもあるそうだ。続編を期待するとともにガイドブックも期待したい。
 
 
2018年6/28(木)19:30・6/29(金)19:30・7/1(日)14:00 
ターミナルプラザことにパトス

投稿者:S・T(40代)

text by ゲスト投稿

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