世界につながる日常 座・れら《The 別役!》『眠っちゃいけない子守唄』

小沼なつき×信山E紘希『眠っちゃいけない子守唄』(「メリーさんの羊」1994より)
 
 
コミュニケーション環境が不全の一人暮らしの男の注文でレンタル家族のような女、トシコが事務所から派遣される。ともに中年といった役どころか。男は誰かとコミュニケーション、話をしたいのだが家の外に出てまではできないようだ。引きこもり。トシコはマニュアルにしたがいポットに持参の紅茶をすすめたり、掃除をしたりしながら話相手になろうとする。しかし、男はひたすら話をすることを求める。トシコを前にして男は雄弁だ。ずっと眠っていないという

この間、女と男は小テーブルをはさんではす向かいに座る。下手、客席正面向きに  トシコ。上手、背中を見せて男。劇中、この座り位置はほとんど不動だ。女はテーブルの向こうで動きもし、男もたまに立ったり、最後のほうでトシコのほうにまわり顔を見せたが。この二人の不動の座り位置が強く印象に残った。終演後、演出に伺ったら座り位置に戯曲の指定は全く無いということだった。
男は雄弁だ。トシコがなぜトシコなのか、紅茶に入れる角砂糖の個数について世界はどう説明するのか聞きたい、などと雄弁が続く。これは世界につながりたい病ではないか。
女の日常言語の放出に対峙して世界につながりたい男の不動の背中が強固な壁のように見えた。あるいは噛み合わない。「チェコスロバキア人とエチオピア人が会話するレコード」か。

しかしこの身勝手な男に対して、「私の夫もそうっだった」とトシコが言い放った瞬間から二人の立場が逆転する。あるいは交錯を始める。女のほうが世界になった。

女は男を知るため過去の痕跡を部屋に探し、紙工作の家や樹木や電柱を見つけ出す。
それは男が喪失した母性や家郷を想起させた。死を意識しつつも、なお雄弁であった男は女によって復活するのだろうか。

信山E紘希はしっかりしたせりふ回しが良かったがもう少し表情を見たかった。
小沼なつきは一人芝居のように所作を決めすぎるのが玉にきずだった。
部屋の天井からつるされた笠電球と黒電話がこの日見た両作品に共通したセットだった。
 
 
2018年7月14日(土)20:00 シアターZOO

投稿者:有田英宗(60代)

text by 招待企画ゲスト

SNSでもご購読できます。