西村知津子×清水秀紀『寝られます』(「はるなつあきふゆ」1993より)
「自分が自分である理由」をさがして町から町へ旅を続ける左が義足の男。その旅は未来への歩みでなく過去へ引き返す道のり、と決心しているようだ。男は自分が30年前に爆弾テロを実行したある町にたどり着く。30年前、子どもたちが集まる建物に爆発を仕かけた直後、思い直し信管を外しに戻るが一瞬の差で間に合わず左足が吹き飛ぶ。じつはその時、子どもたちはまだ誰も集まっていなかったのだが。
義足を引きずり30年振りに町にたどりついた男は、「寝られます」という不思議な看板を出している家に宿を乞う。そこに暮らしているのは手足がばらばらになった、たくさんの人形をテーブルに広げて修繕を続けている一人の魔女だった。その日、男が来る前からまだ温かい左足が1本路上に落ちているが、どうしようか、どんどん冷たくなっていくのだが、という電話もかかってきていた。魔女の目の前のベッドに寝かされて、テロの顛末を聞かされる男。テロの後、仲間に病院から拉致されたことを話す男。人形の足の修繕を見る男。男はなかなか寝られないが、秘薬が調合された飲み物を魔女の語りに紛れて飲まされて眠くなっていく。そして朝には、死を迎えると宣告されるのだが。
魂の暗闇と光明を二人の女と男が、浮かびあがらせた。新劇で活躍するベテランの二人、西村千津子(劇団にれ)と清水秀紀(釧路演劇集団)の間合いが良かった。
自由は肉体に宿る、と思う。男が受けた死の宣告とはじつは復活の朝の予言ではなかったか。未来と過去の存置は逆説的だ。演出、戸塚直人は不条理がはらむ情理を見事にすくいあげた。
2018年7月14日(土)18:00 シアターZOO
投稿者:有田英宗(60代)
text by 招待企画ゲスト