商業スペクタクル 劇団☆新感線『メタルマクベスDisc 1』

台風の影響で東京も不穏な空と雨であった。「これ、市場前に止まりますか?」と訊きながら乗り込んだゆりかもめ。笑顔で「はい、二つ目ですよ」と答えてくれた女性二人連れが、「新感線ですか」というので、「はい」とほっとして座る。まあこんな台風の夕刻に豊洲へ向かう人々の目的は同じ。「札幌から来たんです」という私に、彼女らのみならず車両中からまあ~と賞賛とも呆れともとれるため息が。

激しい雨の中、列をなして向かう先は、 IHIステージアラウンド東京。台風でも13500円だしてりゃ来ますわな。TBSの宣伝から引用すると、「1300人を乗せた巨大な盆が、360度回転し、ぐるりと舞台が取り囲む」という劇場を体感した。場面転換に応じて客席が動く。半円の舞台の幕は巨大スクリーンの扉。広さと映像のおかげで壮大な時空があからさまに表現できる。映画に舞台劇がはめ込まれた感じだ。世界戦争後の近未来設定で荒廃した世界が描かれる。

内容は、マクベスにメタルバンドを織り込んで展開。宮藤官九郎と新感線の笑いは相変わらず。しかしストーリーがわかっているだけに長い!(休憩20分を挟んで合計約4時間)。場面場面は、ほーっと目を奪われるものの、終わってみれば何も残らない。長丁場でも、声も体のキレも落ちない主要俳優陣は流石だが、派手さとかっこよさはあるものの、いや、それがあるゆえに、いのうえひでのりの脚本のメッセージはあまり描けていないように思う。王になるには器が小さ過ぎた、とか、自分を見失ったとか、結論的セリフは吐かれるものの、大きな歴史の中で翻弄される人間といったマクロ的な一面がも少し欲しかった。作品が小さくなってしまう。最後に大量破壊兵器を出してくることで、人間の愚かさを現代になぞらえていることはわかるのだが、なんせ長いから、終盤は、マクベス早く死ね!と思っていた。これがなかなか死なない。

2015年に英国ロイヤルオペラが、プロジェクション・マッピングを試用?した「ドン・ジョバンニ」と通常演出の「マクベス」を上演した。その際、「ドン・ジョバンニ」ではプロジェクション・マッピングがオペラに与える可能性については、目先の面白さにほーっと思ったものの、なんだかつまらなかった。それに対して、「マクベス」が絶品だった。舞台も映画も数々観たけれど、このロイヤルオペラのマクベスが最も私の好みなんだわ。

さて結局、「メタルマクベス」。好みもあるだろうけど、演劇における映像の使用については、あまり想像力を奪うようなものはつまらないし、いただけない、という感想だけが強く残ったのであった。お金をかけりゃいいってもんじゃないよ。がんばれ、札幌の小劇場!

2018年7月28日18:00 IHIステージアラウンド東京にて観劇。

text by やすみん

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