三象の教え 『象』三作/札幌座『象じゃないのに…。』・劇団 青羽『そうじゃないのに』

①札幌座 清田限定公演「象じゃないのに・・・。」
②劇団 青羽「そうじゃないのに」
③札幌座 「象じゃないのに・・・。」

シアターZOOで韓国の劇団青羽(チョンウ)の「そうじゃないのに」と札幌座の「象じゃないのに・・・。」を同日に続けて見た。芝居を終えた青羽の皆さんは客席に陣取って「象じゃないのに・・・。」の初見に臨んだ。そしてアフタートークで青羽、札幌座の皆さんが登壇するという興味深い一日に巡り合うことができた。
じつは「象じゃないのに・・・。」はZOOで初日を迎える前の7月29日に清田区民センターで清田版の1回だけの公演をおこなっている。この清田限定公演も見た。三作,三公演とも見物した人はそんなにいないのではないだろうか。

韓国のイ・ミギョンが書いた戯曲「そうじゃないのに」の翻訳(by木村典子)を読んでひらめきを得た札幌座の斎藤歩が脚色したのが昨年初演された「象じゃないのに・・・。」だ。上演にあたり斎藤は作、演出、出演のほか音楽も担った。韓国の「そうじゃないのに」は2012年に劇団青羽が上演し大韓民国演劇大賞、演出賞などを受けた評価の高い作品だ。演出は札幌でもおなじみのキム・カンポ。ちなみにイ・ミギョンは40代の女性、キム・カンポ、斎藤歩は50代の男性だ。それぞれ実績のある、芝居作りに油の乗った年頃だ。

「そうじゃないのに」と「象じゃないのに・・・。」は動物園から逃げ出したアジア象の暴走事件究明をめぐる顛末を描いている。しかし事件ものではない。追究される象の飼育員の内面をめぐる人間劇だ。両作とも社会風刺や超現実の技巧が凝らされている。すぐれた戯画化により人間劇の真率さが際立っていた。もちろん両国の俳優の力量があってこそだ。

斎藤の代表作に1995年初演の「亀、もしくは・・・。」がある。題名表記からも「象」は「亀」の系譜上にあることは明らかだ。動物への眼差しから人の精神の病理を照射する作劇だ。「亀」はハンガリーの15分の原作を斎藤が1時間の戯曲に脚色した。亀の歩み、象の歩みが斎藤の歩みに寄り添う光景だ。

動物園を逃げ出した象は街中(札幌は大通公園)の選挙演説会場(北海道知事選演説会場)で有力候補(現職のタカナシ ミハル知事)に突進して瀕死の重傷を負わせる。  象の若い飼育員を前にして精神科医、刑事、母親が三者三様の解釈を押し付けるがいずれも的を射ない。象への性的倒錯(病気)、テロの実行(政治的陰謀)、息子の動物愛(飼育生物を逃がす性分)とそれぞれのアプローチは一見もっともだ。

飼育員役のユン・サンファと川崎勇人(東京乾電池、札幌座の前身TPS出身)は茫洋とした佇まいが似ていた。日韓の役者たちは相似のキャラクターを好演していた。基になる脚本が同じだから相似形になるのは自然だ。飼育員を面詰する刑事役のハン・ドンジュと斎藤歩も鋭角な感じだった。ただ、斎藤演じる警視庁の公安刑事は事件の背景に国政レベルの陰謀を嗅ぎ取り女性都知事や与党幹事長、その同窓の動物園長など微妙に実名から変えた名前を速射砲のように繰り出し飼育員を追い詰めようとする。このあたりは劇のスパイスなのだが2015年の初演時、女性都知事の政治状況は絶好調だったがその後、衆議院選を経て劇的に失速した。再演における時事ネタの困難も感じた。

象を愛してやまない飼育員は同僚の飼育員の証言からも明らかなように優秀な象の理解者だ。象の暴走は象の本性に従っただけなのだろう。飼育員はそれを知っている。
人は人との関係性の中でかろうじて自分が何者かを知り得る。これは生を受けてから死ぬまで続く人間の業だ。人は人とのやりとりなしに生きてゆけない。人間は社会的動物であることを免れ得ない。では、人は人をどれだけ解釈し切れるのだろうか。人は動物をどれだけ理解出るのだろうか。そしてその逆はどうか。

「そうじゃないのに」と「象じゃないのに・・・。」の結末はそれまでの相似形から分離し真逆のものが現れる。「そうじゃないのに」は飼育員二人が象に変身して鼻を振り歩き出す。これは合一への微かな希望だろうか。
一方、「象じゃないのに・・・。」は暴走して処分された象が最後に出てきて信頼する飼育員の前で心境を語る。しかし最後に「君は人間だ。象にはなれない。」といって立ち去るのだ。

アフタートークで青羽の俳優たちが口々に言っていたのは「同じ芝居だから字幕を見なくてもいいと思っていたが途中から見ないではわからなくなった。」だった。
原作を書いたイ・ミギョンは「ラストが反対だが、国情も違う。人間のさびしさをとらえているところは同じではないか。」と感想を述べた。
演出のキム・カンポは札幌での国際交流に謝辞を述べていたが、もう少し突っ込んだ感想を聞きたかった。

最後に清田版「象じゃないのに・・・。」について。
清田では2005年から「清田演劇のつどい」という住民グループが札幌座と連携した上演活動を続けていて1回目は「亀もしくは・・・。」だった。今年の「象じゃないのに・・・。」は12回目に当たる。清田版の象は国道36号線をひた走り札幌ドームの阻止線も越え清田までやってくるという設定。なぜか?清田の名水と名産のほうれん草ポーラスターに引き寄せられたのだ。清田区20周年の昨年から創始された清田の題材を取り込んだお芝居は300人超のお客様を大いに沸かせた。
アフタートークで同僚飼育員役の前田透(劇団木製ボイジャー14号)は劇の最後に出てくる象の役も演じたが、地元清田高校の演劇部であったことを明かした。
2011年に第6回清田演劇のつどいが「亀、もしくは・・・。」の2回目の上演をした時、前田は清田高演劇部にいて観に来た、というエピソードを聞いた時は良い因果を感じて嬉しかった。
 
 
①2018年7月29日(日)14:00 清田区民センター
②2018年8月 5日(日)13:00 シアターZOO
③2018年8月 5日(日)17:00 シアターZOO

投稿者:有田英宗

text by ゲスト投稿

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